葛西のマンション相場は、ここ数年で大きく上がりました。築30年前後の部屋をお持ちの方のもとには、不動産会社から「今が売り時です」というチラシが届いているかもしれません。一方で、修繕積立金の値上げの知らせや、2回目・3回目の大規模修繕の話が管理組合から聞こえてきて、「持ち続けて大丈夫なのか」と迷っている方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げます。葛西・南葛西の築古マンションの価格差は、築年数そのものよりも「修繕積立金の水準と積立残高」「管理の状態」「駅からの距離」の3つで説明できる部分が大きく、売り時かどうかもこの3要素の組合せで判断できます。相場が上がったから一律に売り時、というわけではありません。
私たち鑑定士は、区分所有マンションを評価するとき、部屋の中だけでなく一棟の建物の管理と、それを支えるお金の状態を必ず確認します。本記事では、3要素が価格にどう効くのかを数字で示し、保有を続ける場合と売却する場合の分かれ目を、収益の面から整理します。税金の取扱いが絡む部分は、必ず税理士にご確認ください。
葛西のマンション相場はどこまで上がったのか
土地の価格は5年で大きく切り上がった
マンションの価格は、建物だけでなく敷地の価値を含んでいます。2026年(令和8年)地価公示では、葛西駅を最寄りとする住宅地の標準地10地点の変動率の中央値は5.07%、単価の中央値は1平方メートルあたり469,500円でした。駅から450メートルの中葛西3丁目は598,000円に達しています。駅別の詳しい動きは2026年地価公示、江戸川区の住宅地は5.7%上昇|西葛西・葛西・小岩の駅別温度差を読むで整理しています。
土地が上がれば、築古マンションの敷地持分の価値も上がります。築30年のマンションの価格が10年前より上がっているのは、建物が評価されたからではなく、土地の上昇が建物の経年による減価を上回ったからです。
南葛西の中古マンションは「バス便」の分だけ割安
南葛西は、多くの地域が葛西駅・西葛西駅から1キロ以上離れ、バス利用が前提になる地域です。地価公示でも、葛西駅を最寄りとする10地点のうち5地点は駅から1,000メートル以上離れています。
ただし、距離が遠いから上がらないとは限りません。駅から1,100メートルの南葛西1丁目の標準地は、2026年に8.6%上昇しました。駅近の単価が高くなりすぎた結果、割安な地域に需要が回ってきたと読むのが自然です。南葛西の中古マンションは、この「割安感」で買われている局面にあると考えてください。
築古マンションの価格を決める3要素
要素1|修繕積立金は「月額」より「残高と計画」で見る
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(2024年6月改定)は、計画期間全体の修繕積立金の平均額の目安を、専有面積1平方メートルあたりの月額で示しています。
| 地上階数・建築延床面積 | 平均値(月額) | 事例の3分の2が含まれる幅 |
|---|---|---|
| 20階未満・5,000平方メートル未満 | 335円 | 235円〜430円 |
| 20階未満・5,000〜10,000平方メートル未満 | 252円 | 170円〜320円 |
| 20階未満・10,000〜20,000平方メートル未満 | 271円 | 200円〜330円 |
| 20階未満・20,000平方メートル以上 | 255円 | 190円〜325円 |
| 20階以上 | 338円 | 240円〜410円 |
(いずれも機械式駐車場分を除く)
築30年前後で、修繕積立金が1平方メートルあたり月100円台にとどまっているマンションは、この幅を下回っています。こうしたマンションは、近い将来の大幅な値上げか、一時金の徴収が避けられません。買う側はそれを見越して価格を下げて交渉しますから、積立金が安いことは売るときには不利に働きます。
逆に、積立金が高すぎても価格は下がります。月々の負担が1万円違えば、金利1%・35年返済の住宅ローンに換算して約350万円分、買い手の借入余力が変わるからです。大事なのは月額の高い安いではなく、「長期修繕計画に対して今いくら積み上がっているか」です。
要素2|管理の状態は鑑定評価でも個別的要因になる
不動産鑑定評価基準は、区分所有建物の価格に影響する個別的要因として、一棟の建物の修繕計画・管理計画の良否とその実施の状態や、区分所有者の管理費等の滞納の有無などを挙げています。私たち鑑定士が評価のたびに管理規約、長期修繕計画、総会議事録を取り寄せるのはこのためです。
買い手の側も同じ情報を見ます。売買の際には、宅地建物取引業法施行規則16条の2に基づき、修繕積立金の額と既に積み立てられている額、滞納額、維持修繕の実施状況の記録などが重要事項として説明されます。値上げの決議や一時金の予定は、隠して売ることはできません。だからこそ、管理状態の良し悪しはそのまま価格に反映されます。
2022年4月からは、管理組合の管理計画を地方公共団体が認定する「管理計画認定制度」も始まっています。認定の有無は、築古マンションが「管理で選ばれる」時代の目印になりつつあります。
要素3|駅距離は築年数より価格差を生む
東西線は大手町・日本橋へ乗り換えなしで向かえる路線であり、葛西・西葛西の中古マンションは駅徒歩の分数で価格が大きく変わります。2026年地価公示の江戸川区の住宅地でも、駅の近くと駅から1キロ以上離れた地点とでは、単価の中央値に2割以上の差があります。
築古マンションの場合、建物の価値の比重が小さくなる分、立地の差が価格差としてむき出しになります。「築30年同士なのに、こちらは2割安い」という場面の多くは、築年数ではなく駅距離とバス便の有無で説明がつきます。
想定されるケース|同じ築31年でも3,000万円台と2,000万円台に分かれる
2つの部屋を並べてみる
具体的に見てみましょう。ともに1995年築(築31年)、専有面積70平方メートル、延床面積15,000平方メートル程度の大規模マンションの中層階を想定します。数値はすべて説明のための想定です。
| 項目 | 部屋A(中葛西・駅徒歩7分) | 部屋B(南葛西・バス便) |
|---|---|---|
| 修繕積立金(1平方メートルあたり月額) | 280円(約19,600円) | 120円(約8,400円) |
| 積立残高と計画 | 計画どおり、一時金の予定なし | 3回目の大規模修繕で1戸150万円不足の見込み |
| 管理の状態 | 滞納ほぼなし、管理計画認定あり | 滞納が増加傾向、理事のなり手不足 |
| 想定される成約価格 | 4,200万円前後 | 2,800万円前後 |
部屋Bの価格が低いのは、バス便という立地の差に加えて、一時金150万円の見込みと、近い将来に積立金が倍以上になる見通しを、買い手が価格から差し引くためです。部屋Bの所有者にとって大切なのは、相場の上昇に乗ることよりも、管理組合の資金計画がどう決まるかを見極めることです。値上げ決議が通って計画が健全化すれば、むしろ買い手の不安は小さくなります。
鑑定士が価格を判断するときの順番
私たち鑑定士は、区分所有マンションを評価するとき、取引事例比較法(似た部屋の取引事例と比べて価格を求める方法)を中心に、収益還元法(貸した場合の収益から価格を求める方法)で検証します。事例を選ぶときは、同じ駅・同じバス路線・同じ築年帯からそろえ、そのうえで管理状態と積立金の差を個別に補正します。「葛西の築30年の平均」をそのまま当てはめることはしません。
売り時か持ち時かを収益の面から考える
貸した場合の利回りを計算する
持ち続ける選択肢には「住み続ける」と「貸す」があります。ここでは貸した場合の収益を、部屋Aで計算してみます。
| 項目 | 年額 |
|---|---|
| 賃料収入(月14万円) | 168万円 |
| 管理費・修繕積立金(月3.1万円) | ▲37.2万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | ▲10万円 |
| 空室損失・賃貸管理手数料・原状回復等 | ▲23万円 |
| 純収益 | 約98万円 |
純収益98万円を、いま売れば手にできる4,200万円で割ると約2.3%です。言い換えると、部屋Aを貸して持ち続けることは、4,200万円の資産を年2.3%で運用しているのと同じ状態です。投資家が区分マンションに求める利回りがこれより高い水準であれば、投資家目線の価格(収益価格)は4,200万円を大きく下回ります。
自宅として買う人が多い市場では価格が収益を上回る
葛西・西葛西の70平方メートル前後のファミリー向けの部屋は、主に自宅として買う人の市場で価格が決まります。住宅ローンで買う実需層は利回りで価格を判断しないため、成約価格が収益価格を上回りやすいのです。
ここに判断の手がかりがあります。
- 実需層に売れる価格が収益価格を大きく上回っている → 貸して持つより、売却で価値を確定する合理性が高い
- 修繕積立金の値上げ・一時金が控えている → 決議と資金計画が固まり、重要事項説明で明確に示せる段階のほうが買い手の不安は小さい
- 住み続ける予定がある → 売り時を探すより、管理組合で積立金の計画を健全化するほうが資産価値を守る
どれが正解かは、ご家族の住まい方と資金計画によって変わります。「必ず値上がりする」「今売らないと損」という断定には根拠がありません。断言します。比べるべきは、売却したときの手取りと、持ち続けたときの収益とリスクです。
売却時の税金と築年数の注意点
自宅を売却する場合には、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(租税特別措置法35条)などの特例が使える場合があります。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかでも税率が変わります。適用要件は個別に異なりますので、売却を決める前に税理士にご確認ください。
また、2026年4月1日に施行された改正区分所有法により、耐震性不足などの要件を満たすマンションの建替え決議は、4分の3以上の賛成で可決できるようになりました。築古マンションの「出口」は少しずつ広がっていますが、葛西・南葛西の1990年代のマンションの多くは新耐震基準で建てられており、すぐに建替えが現実になるわけではありません。当面は、修繕と管理で価値を保つ前提で考えてください。
江戸川区の築古マンションで見落としやすい論点
浸水想定は価格にどこまで効いているか
葛西・南葛西は荒川・江戸川の河口に近く、江戸川区のハザードマップでは広い範囲に深い浸水が想定されています。それでも地価は上がり続けており、浸水想定がそのまま価格を押し下げているとは言えません。ただし、電気設備を地下に置いているマンションでは、浸水対策工事の有無が修繕計画と積立金に影響します。詳しくは浸水想定10メートルでも地価は上がる|江戸川区のハザードマップと土地の価値をご覧ください。
査定額が割れたときは根拠を比べる
築古マンションでは、不動産会社の査定額が数百万円単位で割れることも珍しくありません。査定額は媒介契約を取るための価格提示であり、鑑定評価額とは性格が違います。査定書を比べるときは、選ばれている取引事例が同じ駅・同じバス路線のものか、管理状態をどう見ているかを確認してください。
まとめ
葛西・南葛西の築古マンションは、相場全体が上がっていても、修繕積立金・管理・駅距離の3要素によって価格がはっきり分かれます。売り時か持ち時かは、この3要素と、売却したときの手取りと持ち続けたときの収益を並べて判断するものです。
要点を振り返ります。
- 葛西駅を最寄りとする住宅地の地価は2026年地価公示で中央値5.07%上昇し、築古マンションの敷地持分の価値を押し上げている
- 修繕積立金は月額の高低ではなく、国土交通省ガイドラインの目安と積立残高・長期修繕計画で見る
- 管理の状態は鑑定評価の個別的要因であり、重要事項説明で買い手にも伝わるため価格に直結する
- 築古マンションほど駅距離とバス便の有無が価格差を生む
- 貸した場合の利回りと、実需層に売れる価格を比べることが、売り時の判断材料になる
葛西・南葛西に築30年前後のマンションをお持ちで、売却か保有かを迷っている方、相続や離婚で部屋の時価を確かめる必要がある方は、査定額だけで決める前に一度根拠を確認しておくことをおすすめします。
江戸川区・城東エリアのマンションの評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。マンション1室の鑑定評価書は40万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書は15万円〜(いずれも税別)です。詳しくは料金のご案内と売買・価格の評価をご覧ください。


