セットバックが必要な土地の価格は、どのくらい下がるのでしょうか。小岩や平井の旧市街で、家の前の道が車1台やっと通れる幅しかない。売却を考えて不動産会社に相談したら「セットバックが必要なので、そのぶん安くなります」と言われた。けれど、何割安くなるのか、そもそも自分の土地が本当に対象なのかが分からない。江戸川区で古い住宅地に土地をお持ちの方から、こうしたご相談をいただくことがあります。
先に結論をお伝えします。セットバックで道路になる部分そのものは、市場ではほぼ価値がないものとして扱われ、相続税の評価でもその部分の7割が減額されます。そして敷地全体で見ると、後退で失う面積の割合に、狭い道に面していることによる減価が加わります。本記事の想定ケースでは、4メートル以上の道に面した同じ広さの土地と比べて、おおむね1割から1割5分の差になりました。
私たち鑑定士は、後退する面積を正確に押さえたうえで、道の幅や一方後退の有無、区の拡幅整備の状況までを価格に反映させます。本記事では、2項道路とセットバックの仕組み、価格が下がる理由、江戸川区の小岩を想定した試算、売却前に確認すべき点を順に整理します。
セットバックとは何か|2項道路の仕組み
建物を建てるには幅4メートル以上の道路が必要
建築基準法43条1項は、建物の敷地が建築基準法上の道路に2メートル以上接していなければならないと定めています(接道義務)。そして同法42条1項は、原則として幅員4メートル以上のものを「道路」としています。
ところが、昭和25年の建築基準法の施行前から家が建ち並んでいた地域には、幅員4メートル未満の道が数多く残っています。こうした道のうち特定行政庁(建築確認などの権限を持つ行政機関)が指定したものは、同法42条2項により道路とみなされます。これが「2項道路」(みなし道路とも呼ばれます)です。
道路の中心から2メートル下がるのが原則
2項道路では、道の中心線から2メートルの線が道路の境界線とみなされます。たとえば幅員3メートルの道なら、中心線から敷地までは1.5メートルしかないので、建て替えのときに敷地側へ0.5メートル下がる必要があります。これがセットバック(道路後退)です。
後退した部分は、建築基準法上は道路として扱われます。建物はもちろん、塀や門、花壇なども設けられません。また、建蔽率や容積率を計算するときの敷地面積にも算入できません(建築基準法施行令2条1項1号)。
反対側が水路や崖なら「一方後退」になる
道の反対側が川や水路、崖、線路敷地などに接している場合は、反対側を下げることができません。このときは、反対側の境界線から4メートルの線まで、こちら側だけで後退することになります(建築基準法42条2項ただし書)。幅員3メートルの道なら、後退幅は0.5メートルではなく1メートルです。
江戸川区は、かつての農業用水路や小河川を暗渠や親水緑道に変えてきた地域です。道の反対側が水路や緑道だった場所では、一方後退の扱いになっていないかを必ず確認してください。後退面積が倍になり、価格への影響も大きくなります。
セットバックが必要な土地の価格が下がる3つの理由
理由1|使える面積が減る
最も分かりやすいのは面積の減少です。登記簿上は100平方メートルの土地でも、5平方メートルを後退すれば、建物の計画に使えるのは95平方メートルです。後退部分は所有権こそ残りますが、誰もが通行する道路になるため、市場で価値を認める買い手はまずいません。
このため私たち鑑定士は、後退部分を有効な宅地から除き、残りの面積に単価を掛けて価格を求めるのが基本です。査定の段階で登記簿の地積をそのまま使うか、後退部分を除くかで、査定額に差が出る理由の一つでもあります(査定額が3社でバラバラなのはなぜかで詳しく解説しています)。
理由2|狭い道そのものが減価要因になる
面積だけの問題ではありません。不動産鑑定評価基準は、住宅地の価格に影響する個別的要因として「接面街路の幅員、構造等の状態」を挙げています(不動産鑑定評価基準 総論第3章)。幅の狭い道は、車の出し入れがしにくい、建て替え工事で大型車両が入れない、消防車両が近づきにくいといった不便を伴います。
容積率(敷地面積に対する延べ床面積の上限の割合)にも影響します。前面道路の幅員が12メートル未満の場合、住居系の用途地域では「道路の幅員×10分の4」が容積率の上限になります(建築基準法52条2項)。2項道路は幅員4メートルとして計算するため、上限は160パーセントです。都市計画で200パーセントが指定されていても、そのとおりには使えません。
理由3|未了のままだと買い手が読みにくい
建て替えの予定がなければ、セットバックが未了のまま住み続けても違法ではありません。ただし、売却の場面では「どこまで下がるのか」「中心線は確定しているのか」「塀や水道管の移設費用は誰が負担するのか」が買い手にとっての不安材料になります。不確かな点が多いほど、買い手はその分を価格から差し引いて考えます。
逆にいえば、後退位置と面積、区の整備制度の使い方をあらかじめ整理しておけば、この減価はある程度抑えられます。
想定されるケース|小岩の2項道路で価格を試算する
前提
JR小岩駅から徒歩12分、旧市街の住宅地にある100平方メートルの整形地(間口10メートル)を想定します。周辺で4メートル以上の道に面した標準的な宅地の価格水準を、1平方メートルあたり50万円とします。前面道路は幅員3メートルの2項道路です。数値はいずれも説明のための想定です。
- ケースA:両側後退(後退幅0.5メートル、後退面積5平方メートル)
- ケースB:反対側が親水緑道で一方後退(後退幅1メートル、後退面積10平方メートル)
- 狭い道に面していることによる街路条件の減価:5パーセントと想定
市場価格の目安
| 区分 | 有効面積 | 価格の目安 | 標準との差 |
|---|---|---|---|
| 標準(4メートル以上の道) | 100平方メートル | 5,000万円 | ― |
| ケースA(両側後退) | 95平方メートル | 約4,510万円 | 約▲10% |
| ケースB(一方後退) | 90平方メートル | 約4,280万円 | 約▲15% |
ケースAは「95平方メートル×50万円×0.95」、ケースBは「90平方メートル×50万円×0.95」で計算しています。同じ100平方メートルの土地でも、一方後退かどうかで約240万円の差がつきます。
相続税評価ではどうなるか
相続税や贈与税の計算に使う財産評価基本通達24-6は、セットバックを必要とする宅地について、後退部分の価額の70パーセントを控除すると定めています。上の土地の路線価を1平方メートルあたり40万円(100平方メートルで4,000万円)とすると、ケースAの控除額は「4,000万円×5÷100×0.7」で140万円、評価額は3,860万円です。ケースBでは控除額280万円、評価額は3,720万円になります。
後退部分を3割の価値で残す相続税評価に対し、市場ではその部分をほぼゼロとみなし、さらに街路条件の減価も加わります。相続した土地を売る、遺産分割で分けるといった場面で「相続税評価ではこうだったから」と考えると、実際の売却価格との開きに驚くことになりかねません。相続税の申告に関する判断は税理士にご確認ください。
江戸川区の細街路拡幅整備を知っておく
区道・私道の後退用地を区が整備する
江戸川区は「細街路拡幅整備事業」として、幅員4メートル未満の2項道路などに面した敷地で建築するとき、後退用地の整備を区が行う仕組みを設けています。区道に面した後退用地のほか、舗装済みで道路中心が明確な私道に面した後退用地も対象です。建築確認申請と同時に「細街路拡幅整備申請書」を提出するため、事前に区の建築指導課細街路係へ相談します。
整備の方法は、区が工事する「区施工」と、区の助成金で建築主が自ら施工する「助成金による施工」から選べます。区の案内では、ブロック塀やネットフェンスの撤去、水道管の移設、樹木の移植といった費用が助成の対象として挙げられています。
寄附か無償使用契約かで所有権が変わる
区道に面した後退用地は、区に寄附するか、区と無償使用契約を結ぶことで、区が道路として維持管理します。寄附では所有権が区に移り、分筆と抵当権等の抹消が必要です。無償使用契約では所有権は残りますが、固定資産税・都市計画税の非課税申告を区が代行します。私道に面した後退用地も、所有者の申告により非課税になる場合があります(窓口は江戸川都税事務所)。
売却の場面では、後退用地が分筆・寄附済みなのか、所有権が残ったまま無償使用契約を結んでいるのかで、登記簿の地積と実際に使える面積の関係が変わります。買い手に説明できるよう、契約書や登記の状況を手元にそろえておいてください。
売却前に確認したい5つのこと
道路の種別と後退位置
まず、前面の道が2項道路なのか、42条1項の道路なのか、そもそも建築基準法上の道路でないのかを確認します。江戸川区では建築指導課で道路の種別や後退位置の相談ができます。建築基準法上の道路に接していない場合は、43条の接道義務を満たさず原則として再建築ができないため、価格の考え方がまったく変わります。
チェックリスト
- 前面道路の種別(2項道路・位置指定道路・建築基準法上の道路でない道)
- 後退幅と後退面積(両側後退か一方後退か、中心線は確定しているか)
- 後退済みか未了か、後退用地の寄附・無償使用契約・分筆の状況
- 角地の場合の隅切り(交差部分の角を切って空ける部分)の有無と面積
- 私道の場合は私道持分と、通行・掘削の承諾の取りやすさ
私道の持分や負担が価格に与える影響は、本体サイトの私道負担・セットバックで土地の価値はどれだけ下がるかでも解説しています。
価格の根拠が必要な場面では鑑定評価書を
親族間での売買、遺産分割、財産分与など、当事者の間で価格に納得を得る必要がある場面では、後退面積や街路条件の減価を根拠とともに示せるかどうかが結論を左右します。仲介会社の査定額は売り出し価格の提案であり、減価の根拠までは書かれていないのが通常です。
土地・戸建住宅の鑑定評価書は30万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書は15万円〜、不動産会社の査定書や相手方の提示額を検証するセカンドオピニオンは5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
まとめ
セットバックが必要な土地は、後退部分がほぼ価値を持たなくなるうえ、狭い道に面していることによる減価も加わるため、4メートル以上の道に面した土地より価格が下がります。どのくらい下がるかは、後退面積と一方後退の有無、道の状況で大きく変わります。
要点を振り返ります。
- 2項道路では道の中心線から2メートルまで下がるのが原則で、反対側が水路や崖なら一方後退になる(建築基準法42条2項)
- 後退部分は敷地面積に算入できず、市場ではほぼ価値がないものとして扱われる
- 相続税評価では後退部分の価額の70パーセントを控除する(財産評価基本通達24-6)が、市場価格の下がり方はそれより大きくなりやすい
- 小岩の想定ケースでは、標準的な宅地に比べて両側後退で約1割、一方後退で約1割5分の差になった
- 江戸川区の細街路拡幅整備事業を使えば、後退用地の整備を区が行い、固定資産税の非課税手続も進められる
小岩・平井・一之江などの旧市街で、狭い道に面した土地や実家の売却・相続を考えている方、そうした土地を扱う不動産会社や士業の方は、まず道路の種別と後退面積を正確に押さえるところから始めてください。
江戸川区・城東エリアで、セットバックが必要な土地の価格でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。公図や測量図、区との協議資料があれば、それを拝見したうえで価格への影響をご説明します。売買・価格の評価もあわせてご覧ください。


