自宅の売却を考えて、不動産会社3社に査定を頼んだ。戻ってきた金額は4,180万円、3,880万円、3,580万円。同じ家を見て、同じ資料を渡したはずなのに、上と下で600万円も違う。どれを信じればよいのか分からなくなった。江戸川区で一戸建てをお持ちの方から、こうしたご相談をよくいただきます。
多くの方は「一番高い会社が一番うまく売ってくれる会社だ」と考えます。逆に「一番安い会社が正直な会社だ」と受け取る方もいます。どちらも正しくありません。査定額の差は、会社の実力や誠実さの差ではなく、それぞれの会社が前提としている「売り方」と、江戸川区特有の減価要因をどこまで織り込んだかの差であることがほとんどだからです。
この記事では、私たち鑑定士の立場から、査定額と鑑定評価額がそもそも別の性格を持つものであることを整理したうえで、江戸川区の一戸建てで査定額の差が開きやすい5つの要因を具体的に示します。そのうえで、3社の金額に振り回されずに判断するための確認方法をお伝えします。
査定額と鑑定評価額は、そもそも性格が違う
最初に押さえていただきたいのは、査定額と鑑定評価額が「精度の高い・低い」という関係ではない、ということです。目的も、作る人の義務も、書面の意味も違います。
査定額は「この値段で売り出しませんか」という提案
不動産会社が出す査定額は、媒介契約(売却の仲介を依頼する契約)を結ぶにあたって「この価格で売却活動を始めませんか」と提示される、営業上の提案です。宅地建物取引業法第34条の2第2項は、宅地建物取引業者が売買すべき価額について意見を述べるときはその根拠を明らかにしなければならないと定めており、根拠の説明自体は法律上の義務です。ただし、その根拠の作り方や書式までは統一されていません。
だからこそ、A社は「時間をかければこの値段まで届く」という見立てを、C社は「3か月以内に確実に売り切るならこの値段」という見立てを、どちらも「査定額」という同じ名前で出してきます。前提が違う数字を並べて比べているのですから、揃わないのが当たり前なのです。
鑑定評価額は「基準に従って判定した価格」
一方、不動産鑑定評価額は、不動産鑑定士が国土交通省の定める不動産鑑定評価基準に従い、原価法(再調達原価から減価を控除して求める手法)・取引事例比較法(類似の取引事例から比較して求める手法)・収益還元法(将来生み出す収益から求める手法)を適用して判定する価格です。誰が売るか、いつまでに売りたいかといった売主側の事情から切り離して、その不動産が市場で持つ客観的な価値を示します。
決定的な違いは「使い道」にある
査定額は、売却活動の出発点を決めるための数字です。相手方がいる場面で「この金額が妥当だ」と主張する根拠にはなりません。対して鑑定評価書は、共有者や相続人、調停の相手方、税務署、金融機関といった第三者に示すことを前提に作られた書面です。詳しい使い分けは価格等調査報告書と鑑定評価書の違いは提出先で決まるで整理しています。
江戸川区で査定額の差が開きやすい5つの要因
同じ江戸川区の一戸建てでも、査定額の幅が100万円程度に収まる物件と、600万円以上ひらく物件があります。差が開きやすいのは、次の要因を持つ物件です。
要因1|駅距離とバス便の扱い
江戸川区は、東京メトロ東西線・JR総武線・都営新宿線という3つの動線が東西に走り、その間に鉄道空白地帯が残っています。西葛西や葛西の駅至近は区内でも最高水準の価格帯ですが、駅から離れるにつれて価格の下がり方は一様ではありません。
徒歩12分までは緩やかに下がり、そこから先で一段落ちる。さらにバス便エリアに入るとまた一段落ちる。この「段差」をどこに置くかは会社によって判断が分かれます。徒歩15分という微妙な距離帯は、まさにその段差の境目にあたるため、査定額のばらつきが最も大きくなる距離帯です。
要因2|私道負担と接道条件
江戸川区の旧市街、とくに小岩・新小岩周辺や船堀の一部には、幅員4メートル未満の道路に接する住宅が数多く残っています。建築基準法第42条第2項の道路(いわゆる2項道路)に接している場合、建て替えの際には道路中心線から2メートル後退する必要があり、その部分は建物を建てられません。
さらに、道路に2メートル以上接していない敷地は、建築基準法第43条第1項の接道義務を満たさず、原則として建て替えができません。同条第2項の認定または許可を受けられれば建て替えの道は開けますが、その可否は個別判断です。
問題は、この後退部分や私道持分の面積を、査定でどう扱うかです。ある会社は登記簿の地積をそのまま使い、別の会社は後退部分を有効宅地から除いて計算する。120平方メートルの敷地で後退部分が6平方メートルあれば、それだけで200万円近い差が生まれます。
要因3|浸水想定区域をどこまで織り込むか
江戸川区はその大半がゼロメートル地帯(満潮時の海面より地盤が低い低平地)にあたり、区が公表する水害ハザードマップでは広い範囲に想定浸水深が示されています。瑞江・篠崎エリアをはじめ、浸水想定区域に含まれる住宅は珍しくありません。
市場がこのリスクを価格にどこまで織り込んでいるかは、実際の取引事例を丁寧に拾わなければ分かりません。ハザードを「すでに織り込み済みだから査定では触れない」とする会社と、「重要事項説明で必ず出るのだから最初から差し引く」とする会社では、出てくる数字が変わります。
要因4|建物の残存価値の見方
築25年を超えた木造住宅について、「建物価値はゼロ」と切り捨てる査定と、「まだ十分に住めるので数百万円を乗せる」査定が並ぶことがあります。逆に、古家付きで売るより解体して更地にしたほうが売りやすいと判断すれば、解体費用を差し引いた金額が提示されます。江戸川区の木造2階建てであれば、解体費は延床面積や前面道路の幅によって120万円から200万円程度が一つの目安です。前面道路が狭く重機が入りにくい旧市街では、この上限を超えることもあります。
建物をプラスに見るかマイナスに見るかで、同じ家が300万円以上動く。これが査定額の差として表に出てきます。
要因5|どの事例を使ったか
査定の土台になる取引事例には、実際に売れた成約価格と、いま売りに出ている売出価格の2種類があります。売出価格は売主の希望が入った値段であり、そこから値引きされて成約するのが通常です。
売出価格を並べて査定した会社と、指定流通機構(レインズ)の成約価格を使った会社とでは、前提が異なります。また、江戸川区の住宅地は2026年の地価公示で前年比5.7%の上昇となっており(国土交通省 地価公示、2026年)、半年前の事例をそのまま使うか、時点修正(事例の取引時点から評価時点までの市場の変動を価格に反映させる作業)を加えるかでも金額は変わります。区内の駅別の温度差については2026年地価公示、江戸川区の住宅地は5.7%上昇|西葛西・葛西・小岩の駅別温度差を読むで詳しく触れています。
想定されるケース|3社で600万円ひらいた一戸建て
ここまでの要因が重なると、具体的にどう差がつくのか。実在の案件ではなく、江戸川区で起こりうる典型として組み立てた想定ケースでご説明します。
前提とする物件
都営新宿線の駅から徒歩15分、土地面積120平方メートル、築25年の木造2階建て(延床面積95平方メートル)。前面道路は幅員4メートル未満の2項道路で、後退部分が約6平方メートル。浸水想定区域に含まれ、想定浸水深は0.5メートルから3.0メートルの区分。
3社の査定額と、その前提
| 見立て | 査定額 | 前提と主な根拠 |
|---|---|---|
| A社 | 4,180万円 | 時間をかけて高値を狙う。近隣で売出中の物件の価格が根拠 |
| B社 | 3,880万円 | 3か月程度で成約させる。直近の成約事例3件が根拠 |
| C社 | 3,580万円 | 早期に確実に売り切る。成約事例に後退部分と解体費を反映 |
3社とも、自分の前提のなかでは筋の通った数字を出しています。それでも600万円ひらくのは、比べている土俵が違うからです。
差の内訳を分解すると
| 差が生まれた原因 | おおよその影響額 |
|---|---|
| 売出価格を使ったか成約価格を使ったか | 250万円 |
| 後退部分・私道持分を有効宅地に含めたか | 200万円 |
| 建物を加算したか解体費を控除したか | 150万円 |
この3つを揃えれば、3社の数字はほぼ同じ水準に収束します。つまり所有者が知るべきなのは「どの会社が高いか」ではなく、「なぜその金額になったのか」です。断言しますが、根拠を揃えずに金額だけを比べる限り、比較にはなりません。
査定額の差に振り回されないための3つの確認
確認1|根拠を書面で出してもらう
前述のとおり、価額について意見を述べる際に根拠を明らかにすることは、宅地建物取引業法上の義務です。遠慮する必要はありません。「採用した事例の所在・面積・取引時点・価格」「後退部分や私道持分をどう扱ったか」「建物をいくらと見たか」の3点を書面で示してもらってください。口頭で説明を濁す会社があれば、その時点で判断材料になります。
確認2|成約価格か売出価格かを必ず聞く
「近所で4,500万円で出ています」という説明は、その物件が4,500万円で売れたという意味ではありません。売出しから成約までの値下がり幅は物件によりますが、数百万円動くことは珍しくありません。事例が成約価格か売出価格かは、必ず確認してください。
確認3|判断がつかないときは第三者の評価を挟む
3社の説明を聞いてもなお納得できないとき、あるいは後述するように売主がご自身一人ではないとき。この場合は、仲介を前提としない第三者の評価を挟むという選択肢があります。ご依頼から納品までの流れと費用の目安は江戸川区で不動産鑑定を頼むといくらかかる?費用の目安と依頼から納品までの流れにまとめています。
鑑定評価が本当に効くのは「相手がいる場面」
念のため申し上げますが、自宅を売るというだけであれば、鑑定評価は必須ではありません。査定額の根拠さえ確認できれば、多くの場合は十分に判断できます。私たち鑑定士が「今回は鑑定評価をお勧めします」と申し上げるのは、次のような場面です。
共有者や相続人がいる
兄弟で相続した実家を売る、共有名義の自宅を片方が買い取る。こうした場面では、合意のための共通の物差しが要ります。一方が持ってきた査定書は、他方から見れば「その人に都合のよい紙」に見えてしまいます。第三者である鑑定士が基準に従って判定した価格であれば、議論の出発点になります。
親族間売買や同族法人との取引
親子間、あるいはご自身が経営する法人への売却では、価格が著しく低ければみなし贈与(対価が時価より著しく低い譲渡について、その差額を贈与とみなす取扱い)、著しく高ければ役員への利益供与といった論点が生じ得ます。適正な時価を示す客観的な資料が求められる場面です。ただし、具体的な課税関係の判断は税務の領域ですので、税理士にご確認ください。
価格について説明責任を負う立場にある
成年後見人として被後見人の不動産を処分する、法人の取締役として会社所有の不動産を売却する。こうした立場では、「なぜその価格で売ったのか」を後日説明できる資料が必要になります。仲介会社の査定書では、この役割を果たしきれないことがあります。
まとめ
査定額が3社でバラバラなのは、会社の良し悪しではなく、前提としている売り方と、織り込んだ減価要因が違うからです。金額だけを並べて高い順に選ぶのは、比較になっていません。
要点を振り返ります。
- 査定額は「この価格で売り出しませんか」という営業上の提案であり、鑑定評価額は不動産鑑定評価基準に従って判定した客観的な価格である
- 江戸川区で差が開きやすいのは、駅距離とバス便の段差、2項道路の後退部分と私道持分、浸水想定区域の織り込み、建物の残存価値の見方、使った事例が成約価格か売出価格か、の5点
- 想定ケースでは、この3つの前提の違いだけで600万円の差が生まれた
- 宅地建物取引業法第34条の2第2項により、査定額の根拠説明は業者の義務。事例・私道の扱い・建物評価の3点を書面で求めてよい
- 共有者・相続人がいる場面、親族間や同族法人との売買、説明責任を負う立場では、第三者の鑑定評価が判断の土台になる
江戸川区や城東エリアで一戸建ての売却をお考えで、手元の査定額をどう受け止めればよいか迷っておられる方。共有者や相続人との話し合いを控えていて、全員が納得できる物差しを探している方。まずは査定書の根拠をご確認いただき、それでも判断がつかない場合はご相談ください。
江戸川区・城東エリアの不動産の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。査定額の見方についてのご質問だけでも構いません。


