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離婚・財産分与

財産分与の価格時点は別居時か分割時か|江戸川区の戸建てで400万円が動く分岐点

Appraisal Journal

財産分与で自宅を評価するとき、価格時点を別居時と分割時のどちらに置くかで結論は変わります。江戸川区の公示地価6年分をもとに、船堀の戸建てで800万円、西葛西のマンションで20万円という時点差を試算し、過去時点の鑑定評価の可否と依頼前に決めるべき前提を鑑定士が整理します。

離婚・財産分与公開: 23分で読了著: 吉田 健人

「自宅の価値を出してください」というご依頼を受けたとき、私たち鑑定士が最初にお尋ねするのは「いつの時点の価格ですか」という一言です。多くの方は、ここで少し戸惑われます。今の価格に決まっているではないか、と。

けれども離婚の場面では、そう単純ではありません。別居したのが4年前、調停が始まったのが2年前、そして今まさに分け方を詰めている。この間に江戸川区の地価は動き続けています。どの時点を切り取るかで、自宅の評価額は数百万円単位で変わる。そして評価額が変われば、受け取る、あるいは支払う代償金もその半分だけ動きます。

さらに厄介なのは、2026年に入って市場の向きが一様ではなくなったことです。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の月例速報マーケットウォッチ2026年8月度によれば、東京都区部の中古マンションの成約平方メートル単価は132.69万円で前年同月比マイナス0.3パーセント。一方、2026年地価公示の江戸川区の住宅地は5.7パーセント上昇しています。土地は上がり、マンションは止まった。同じ区内でも、資産の種類によって「時点をずらす意味」が正反対になりつつあります。本記事では、価格時点という論点を私たち鑑定士の立場から整理し、江戸川区の実データを当てはめた試算をお示しします。なお、法律上の結論はご事情によって変わりますので、弁護士にご確認ください。

「基準時」という言葉は2つの意味で使われている

分ける対象を確定するのは別居時

財産分与の話し合いでは「基準時」という言葉が飛び交いますが、実務ではこれが2つの別々の作業を指しています。混乱の大半は、ここから生まれます。

ひとつ目は、何を分けるかを決める作業です。夫婦の協力によって築いた財産(共有財産)の範囲は、協力関係が終わった時点、つまり原則として別居時を基準に確定します。別居後に一方が自分の給与で買ったものは、原則として分与の対象になりません。

価格を判定するのは分割時

ふたつ目は、確定した財産にいくらの値段を付けるかという作業です。こちらは別居時ではなく、分割時、すなわち協議がまとまった時点、調停なら成立時、訴訟なら事実審の口頭弁論終結時に近い時点で判断するのが実務の一般的な扱いです。最高裁判所昭和34年2月19日判決が、財産分与にあたり考慮すべき「一切の事情」には事実審の口頭弁論終結時における当事者双方の財産状態も含まれると述べており、これが根拠のひとつとされています。

つまり「対象は別居時、値段は分割時」が原則形です。預貯金は別居時の残高で確定し、額面が動かないので時点の問題が起きない。ところが不動産は、同じ物が時間とともに値段を変える。だから不動産だけが、この論点に引っかかります。

鑑定評価では「価格時点」と呼ぶ

私たち鑑定士は、この「いつの価格か」を価格時点と呼びます。不動産鑑定評価基準は、価格時点を鑑定評価を行った年月日を基準として現在・過去・将来に区分しています。価格時点は依頼の前提条件であり、鑑定士が勝手に決めるものではありません。ご依頼の際にお知らせいただく必要がある、最も重要な条件のひとつです。

別居から合意までの間に、江戸川区の地価はどれだけ動いたか

調停で終わっても半年から1年かかる

最高裁判所「令和6年司法統計年報(家事編)」によれば、婚姻関係事件の既済件数は58,429件で、そのうち1年以内に終了したものがおよそ9割、1年を超えたものが1割強でした。これは調停等の審理期間であって、別居してから調停を申し立てるまでの期間は含みません。別居から数えれば、2年、3年という例は決して珍しくありません。

その間に、地価は止まっていません。

公示地価で見る江戸川区の6年間

国土交通省の地価公示(地価公示法に基づき、毎年1月1日時点の正常な価格を判定して公表する制度)から、江戸川区の全用途平均価格の推移を並べます。

価格時点(毎年1月1日)平均価格(円/平方メートル)対前年変動率
2021年407,835マイナス0.66%
2022年413,252プラス1.19%
2023年427,626プラス3.35%
2024年449,725プラス4.89%
2025年478,258プラス5.84%
2026年514,707プラス6.31%

(国土交通省「地価公示」各年の江戸川区分による)

2022年から2026年までの4年間で、平均価格は24.6パーセント上がりました。自宅の土地が4,000万円だったとすれば、およそ1,000万円の差です。

下がった年もあることを忘れない

見落とされがちですが、2021年の変動率はマイナス0.66パーセントでした。新型コロナウイルス感染症の影響を受けた年です。地価は必ず上がるものではありません。そして2026年8月の中古マンション市場では、東京都区部の成約平方メートル単価が2020年4月以来76か月ぶりに前年同月を下回りました。

価格時点を後ろに倒せば高くなる、という思い込みは、局面によっては裏切られます。だからこそ、どちらの時点を採るかは事前に確認しておくべき論点なのです。駅別の温度差については2026年地価公示、江戸川区の住宅地は5.7%上昇で詳しく整理しています。

想定されるケースで試算する|船堀の戸建てと西葛西のマンション

ケース1|土地は4年で800万円動いた

船堀駅から徒歩圏、土地105平方メートル、1998年築の木造2階建て。2022年4月に別居し、2026年秋に分割の合意が見えてきた、という想定を置きます。

土地の単価は、2026年地価公示の船堀を最寄りとする住宅地標準地の平均457,000円/平方メートルを用いました。2022年の価格は、上の表の江戸川区全用途平均の指数(2026年を100とすると2022年は80.3)で遡って求めています。建物は、築年の経過に応じて減価します。

価格時点土地建物合計
2022年4月(別居時)3,850万円400万円4,250万円
2026年10月(分割時)4,800万円250万円5,050万円

差は800万円。2分の1ルールで分けるなら、代償金の差は400万円です。断言しますが、これは「誤差」ではありません。協議の入口で一言決めておくだけの論点が、400万円を左右しています。

注目していただきたいのは、土地と建物が逆方向に動いている点です。土地は4年で950万円上がり、建物は150万円下がりました。価格時点を後ろに倒すことは土地には有利に、建物には不利に働きます。土地の比重が大きい江戸川区の戸建てでは、土地の動きが結論を決めます。

ケース2|マンションは時点差がほとんど消えた

西葛西の中古ファミリーマンション、専有面積70平方メートル。2025年5月に別居し、2026年秋に合意という想定です。分割時の時価を5,600万円と置きます。

東京都区部の中古マンション成約平方メートル単価は、2026年8月時点で前年同月比マイナス0.3パーセントでした。この変動率をそのまま当てはめれば、2025年の価格はおよそ5,620万円。差は20万円、代償金の差にして10万円です。

同じ江戸川区、同じ期間でも、戸建てでは400万円、マンションでは10万円。価格時点の議論に意味があるかどうかは、対象がどちらかで決まります。マンション案件では、時点を争うより階数・向き・眺望・管理状態といった個別性の把握に注力したほうが結論に効く。それが2026年の市場状況です。

なお、成約単価の水準そのもの(132.69万円/平方メートル)は都心区を含む区部平均であり、西葛西の実勢とは大きく異なります。使ってよいのは変動率だけだとお考えください。

どちらの時点が有利かは、立場で正反対になる

立場上昇局面で有利な時点下落局面で有利な時点
自宅を取得し代償金を払う側別居時(安い)分割時(安い)
自宅を出て代償金を受け取る側分割時(高い)別居時(高い)

売却して代金そのものを分ける場合は、実際の売却代金で清算するため、この対立は基本的に生じません。逆に言えば、どちらかが住み続ける前提の案件でのみ、価格時点は争点になります。住宅ローンの残債が時価を上回っている場合の扱いはオーバーローンの自宅は財産分与でどう分けるのかにまとめました。

過去の時点で評価してもらうことはできるのか

基準は過去時点の鑑定評価を認めている

「別居した2022年時点の価格を出してほしい」というご依頼は可能です。不動産鑑定評価基準は、過去時点の鑑定評価について、対象不動産の確認等が可能であり、かつ鑑定評価に必要な要因資料および事例資料の収集が可能な場合に限り行うことができるとしています。

実務上は、過去時点の地価公示・都道府県地価調査、当時の取引事例、当時の建物の状態を示す資料を集めて判定します。江戸川区であれば標準地が89地点置かれており、過去の公示価格も公表されていますので、土地についてはさかのぼれる場合が多いと言えます。

遡るほど資料の制約は厳しくなる

一方で、限界もあります。建物は当時の内部の状態を確認する手立てが乏しく、現況からの推定にならざるを得ません。リフォームや損傷が別居後に生じていれば、その影響を控除する必要があります。取引事例も、時間が経つほど収集が難しくなります。5年、10年と遡るご依頼については、精度の限界を先にご説明したうえでお受けします。

2つの価格時点を1つの報告書で示す方法

協議や調停の場面では、別居時と分割時の両方を示したほうが話が早いことがあります。双方の主張が時点で対立している以上、両方の数字を同じ物差しで並べるほうが、合意の土台になりやすいからです。当事務所では、1つの対象不動産について複数の価格時点で評価を行うご依頼もお受けしています。1時点だけの場合より費用は増えますが、2件を別々に依頼するよりは抑えられます。

ご依頼の前に決めておきたい3つの前提

価格時点は弁護士とすり合わせてから

価格時点は、鑑定士が選ぶものではありません。当事者間の主張と手続の段階によって決まる前提条件です。代理人弁護士が付いている場合は、必ず先生とすり合わせたうえでお申し付けください。代理人がまだいらっしゃらない場合、当事務所から弁護士をご紹介することも可能です。

提出先で必要な書面の種類が変わる

夫婦間の話し合いで相場観を共有したい段階であれば、価格等調査報告書で足りることが多く、費用も期間も抑えられます。調停や離婚訴訟で価額そのものが争点になっている場合、裁判所に提出する資料として用いる場合は、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価書が必要です。いわゆる簡易鑑定書という名称の書面は、制度上存在しません。この区別はいわゆる「簡易鑑定」に要注意で整理しています。

評価する範囲を特定しておく

敷地の一部が私道になっている、隣地との間に越境がある、建物の一部が未登記である、といった事情は江戸川区の旧市街では珍しくありません。共有名義であれば、持分の評価なのか全体の評価なのかも決めておく必要があります。

なお、財産分与に伴う不動産の移転には譲渡所得税や不動産取得税の論点が生じます。税務の取扱いは税理士にご確認ください。

まとめ

財産分与における価格時点は、当事者が意識しないまま決まってしまいがちな論点です。しかし江戸川区の公示地価が4年で24.6パーセント動いた事実の前では、これは「細かい話」ではありません。断言しますが、どちらかが自宅に住み続ける案件では、価格時点の選択が結論を左右します。

要点を振り返ります。

  • 財産分与の「基準時」は2つある。分ける対象を確定するのは別居時、価格を判定するのは分割時とするのが実務の一般的な扱い
  • 江戸川区の公示地価(全用途平均)は2022年から2026年で24.6パーセント上昇した一方、2021年はマイナス0.66パーセントの下落年だった
  • 船堀の戸建てを想定した試算では、別居時と分割時で評価額が800万円、代償金にして400万円の差が生じた
  • 東京都区部の中古マンションは2026年8月に前年同月比マイナス0.3パーセントとなり、マンション案件では時点差がほとんど消えている
  • 過去時点の鑑定評価は不動産鑑定評価基準上認められているが、資料収集が可能な範囲という制約がある

別居してから時間が経っており、相手方の示す評価額に納得できないまま調停期日が近づいている方。どちらの時点で主張を組むべきか迷っておられる弁護士の先生方。価格時点を決めることは、評価の技術的な前提ではなく、交渉の設計そのものです。その設計をご一緒に考えるところから、私たちはお手伝いできます。離婚・財産分与における評価の考え方は離婚・財産分与のための不動産鑑定もあわせてご覧ください。

江戸川区・城東エリアの不動産の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。別居した年月と現在の手続の段階、そして手元にある査定書の内容をお知らせいただければ、どの時点で評価すべきか、そもそも鑑定評価書まで必要な場面かというところからご説明します。

TAGS#財産分与#価格時点#離婚#別居#船堀
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