毎年9月中旬になると、「基準地価が発表されました」というニュースが流れます。3月の地価公示に比べて扱いは小さく、「公示と何が違うのか」「うちの土地に関係があるのか」と感じている方が多いのではないでしょうか。江戸川区で相続や売却を控えている方からは、この時期に「結局どちらを見ればよいのですか」というご質問をいただきます。
結論から申し上げます。2026年(令和8年)の地価調査で、江戸川区は住宅地6.2%、商業地9.4%の上昇でした。注目していただきたいのは、この2つの数字の差です。前年は住宅地5.1%・商業地7.7%で差は2.6ポイントでしたが、今年は3.2ポイントに開きました。同じ区内で、駅前と内陸が別々の速度で動いています。
本記事では、東京都財務局が公表した江戸川区内41地点の基準地データを確認し、住宅地と商業地の差がどこで生まれたのかを分解します。あわせて、地価公示と地価調査の両方が置かれた「同一地点」を使い、この半年で価格がどれだけ動いたかもお示しします。
2026年地価調査で江戸川区はどう動いたか
地価調査は7月1日時点、地価公示は1月1日時点
地価調査(国土利用計画法施行令第9条に基づき、都道府県知事が毎年7月1日時点の基準地の正常な価格を判定して公表する制度)は、3月に公表される地価公示(地価公示法に基づき、国土交通省の土地鑑定委員会が1月1日時点の標準地の価格を判定する制度)と対になる仕組みです。実施主体・根拠法・価格時点が異なり、2つを交互に見ることで1年を半年ずつに区切って価格の動きを追えます。
2026年分は、東京都内1,295地点(住宅地776地点、商業地483地点、工業地19地点、宅地見込地6地点、林地11地点)について調査が行われ、2026年9月16日付で公表されました。
住宅地6.2%、商業地9.4%、工業地16.3%
江戸川区に置かれた基準地は41地点です。内訳は住宅地28地点、商業地12地点、工業地1地点。対前年平均変動率は次のとおりでした。
| 用途 | 2026年 | 2025年 | 区部全域 |
|---|---|---|---|
| 住宅地 | 6.2% | 5.1% | 8.7% |
| 商業地 | 9.4% | 7.7% | 13.3% |
| 工業地 | 16.3% | 16.5% | 13.8% |
| 全用途 | 7.4% | 6.1% | 11.1% |
右端は2026年の区部全域の平均変動率です(東京都財務局「令和8年東京都基準地価格の概要」および「令和8年地価調査 基準地価格区市町村別用途別対前年変動率」による)。
住宅地・商業地・全用途のいずれも、前年より上昇幅が拡大しました。区部では全23区の住宅地・商業地がプラスとなり、価格が下落した基準地は1地点もありません。
23区の中での位置づけは「下から4番目」
区部全域の住宅地は8.7%、商業地は13.3%ですから、江戸川区はいずれも区部平均を下回ります。23区を上昇率の低い順に並べると、住宅地は足立区5.4%、葛飾区5.8%、練馬区5.9%に次いで江戸川区と世田谷区が6.2%で並び、下から4番目。商業地も足立区7.2%、世田谷区8.6%、練馬区9.0%に次ぐ9.4%で、やはり下から4番目です。
3月の地価公示では下から2番目でしたので、順位はわずかに上がりました。ただし両制度は地点の母集団が異なるため、この変化をそのまま「勢いがついた」と読むことはできません。
価格水準は23区平均のおよそ半分
平均価格は、住宅地が1平方メートルあたり434,500円(坪あたり約144万円)、商業地が909,400円です。23区平均は住宅地842,800円、商業地3,724,400円ですから、江戸川区の住宅地は23区平均のおよそ52%、商業地は24%の水準にあります。
上昇率が区部平均より低いことと、市場が弱いことは別の話です。価格水準が低い地域では投機的な資金の流入が穏やかで、そこに住む人・商売をする人の支払能力が価格を支えます。江戸川区の6.2%は、その性格を映した数字です。
商業地と住宅地の差が3.2ポイント開いた3つの理由
理由1:基準地の立地条件がそもそも違う
最も大きい要因は、身も蓋もない話ですが「どこに基準地が置かれているか」です。江戸川区の商業地12地点のうち6地点は最寄駅から400メートル以内にあり、その平均変動率は11.3%。残る6地点は400メートルを超え、平均7.4%にとどまります。駅至近かどうかだけで3.9ポイントの差です。
一方、住宅地28地点を最寄駅までの道路距離で区切ると、次のようになります。
| 最寄駅までの距離 | 地点数 | 平均変動率 |
|---|---|---|
| 500メートル未満 | 4 | 7.9% |
| 500〜1,000メートル | 10 | 6.8% |
| 1,000メートル以上 | 14 | 5.4% |
住宅地は28地点の半数が駅から1,000メートル以上離れています。商業地は性質上、駅前・幹線沿いに集まりますから、「商業地が強い」という結果の相当部分は「駅前が強い」と言い換えられます。
理由2:価格を決める仕組みが違う
とはいえ、立地だけで3.2ポイントすべてを説明することはできません。
住宅地の価格は、最終的にそこに住む個人の購買力によって天井が決まります。世帯年収と住宅ローン金利という2つの制約があり、価格が上がりすぎれば買い手が消えます。対して商業地の価格は収益性、すなわち店舗・事務所の賃料と、投資家が求める期待利回り(投資額に対して毎年得たい収益の割合)で決まります。賃料が改善し期待利回りが下がれば、住宅地とは別の理屈で価格が動きます。
小岩駅前の西小岩一丁目(13.4%)、平井駅前の平井四丁目(12.1%)、瑞江駅前の瑞江二丁目(11.5%)、葛西駅前の中葛西三丁目(11.5%)。いずれも二桁の上昇で、住宅地とは別の回路で動いています。
理由3:買い手の層が違う
住宅地の買い手は、その地域で暮らそうとする個人と、戸建分譲を手がける地元の事業者が中心です。商圏は狭く、値付けは近隣の成約事例に強く縛られます。これに対し駅前商業地には、マンション分譲事業者や不動産ファンドといった、区外・都心から資金を持って入ってくる買い手が加わります。再開発が進む地域では、この層の動きが単価を押し上げます。小岩駅周辺の値動きについては、小岩の再開発は地価をどこまで押し上げたか|駅前は13年で1.9倍、1.4キロ先は1.3倍で整理しました。
半年でどれだけ動いたのか|地価公示との同一地点比較
江戸川区には共通地点が8つある
地価調査の基準地の一部は、地価公示の標準地と同じ場所に設定されています。この「同一地点」を使うと、1月1日から7月1日までの半年で価格がどれだけ動いたかを、まったく同じ土地について直接比べられます。江戸川区の共通地点は8地点です。
| 所在(用途) | 1月1日 | 7月1日 |
|---|---|---|
| 東小岩六丁目(住宅地) | 495,000 | 510,000 |
| 中葛西五丁目(住宅地) | 585,000 | 603,000 |
| 船堀七丁目(住宅地) | 480,000 | 490,000 |
| 東小松川二丁目(住宅地) | 334,000 | 340,000 |
| 西葛西六丁目(商業地) | 2,180,000 | 2,270,000 |
| 南小岩七丁目(商業地) | 867,000 | 902,000 |
| 中央二丁目(商業地) | 406,000 | 415,000 |
| 臨海町三丁目(工業地) | 520,000 | 550,000 |
日付はいずれも2026年、単価は1平方メートルあたりの価格(円)です。
住宅地は半年で2.5%、商業地は3.5%
この8地点を用途別に平均すると、住宅地4地点は半年で2.5%、商業地3地点は3.5%、工業地1地点は5.8%の上昇でした。
ここからもう一歩踏み込めます。同じ住宅地4地点の対前年変動率(1年分)は平均6.1%です。後半の半年が2.5%なら、前半、つまり2025年7月から2026年1月までは約3.5%だった計算になり、上昇ペースは2026年に入ってからわずかに落ち着いたことになります。商業地も同様で、共通3地点の年間7.5%に対し後半3.5%、前半は約3.9%です。
ただし共通地点は住宅地4・商業地3と数が限られます。区全体の傾向としてそのまま受け取らず、「手元の資料でここまでは言える」という範囲の話としてお読みください。
時点修正という実務
この半年ごとの動きは、私たち鑑定士にとって作業上の意味を持ちます。
鑑定評価では、過去の取引事例を使うとき、その取引時点から価格時点までの価格変動を補正します。これを時点修正といいます。2026年2月の取引事例をもとに9月時点の価格を求めるなら、この7か月分を何%で埋めるかを判断しなければなりません。地価公示と地価調査を交互に並べた同一地点のデータは、その判断の出発点になります。
相続の場面では、相続開始日(被相続人が亡くなった日)が価格時点になることが多くあります。協議が長引き、亡くなってから2年、3年が経っているケースは珍しくありません。上昇局面では、価格時点をどこに置くかで金額が大きく変わります。
臨海町の工業地16.3%をどう読むか
基準地は1地点だけという前提
江戸川区の工業地の平均変動率16.3%は、区部全域の13.8%を上回り、23区では江東区の17.2%に次ぐ2番目の高さです。ただしこの16.3%は、臨海町三丁目の1地点だけで算出された数字です。区内の工業系用地全体がこの速度で上がっていると読むのは正確ではありません。
それでも無視できない動き
とはいえ、この1地点は半年で5.8%、1年で16.3%動いています。臨海町は首都高速湾岸線と国道357号に近い、湾岸の物流・事業用地が集まる地域です。物流施設への需要と、まとまった事業用地の供給の細さが背景にあると考えられます。
区内で工場・倉庫を保有される法人にとって、この動きは無関係ではありません。同族間・役員間での売買、賃料改定、事業承継に伴う自社株評価。いずれの場面でも、帳簿価額と時価の乖離が広がっている可能性があります。この論点は町工場を役員に売るといくらが適正か|江戸川区の工場・倉庫は原価法と収益還元で3倍ずれるで詳しく扱いました。なお、自社株評価や譲渡に伴う税務の取扱いについては、税理士にご確認ください。
地価調査の数字をご自身の不動産にどう使うか
基準地の単価をそのまま掛けてはいけません
基準地価格は、選定された「その地点」の1平方メートルあたりの正常な価格(自由な取引において通常成立すると認められる価格)です。あなたの土地は、間口・奥行・形状・接道といった条件が基準地とは異なります。江戸川区に多い、間口の狭い旧市街の敷地や、路地状の部分を通って出入りする敷地では、単価に面積を掛けた金額と実際に成立する価格の差が大きく開きます。区の平均変動率も同じです。駅からの距離帯で2.5ポイントの幅があることは、先に見たとおりです。
「資料として使う」場面と「鑑定評価が要る」場面
売却時期を考える、相続での分け方を検討する、借地の条件を協議する。こうした初期の検討なら、地価調査と地価公示を並べて地域の方向感をつかむだけでも役に立ちます。3月の地価公示については、2026年地価公示、江戸川区の住宅地は5.7%上昇|西葛西・葛西・小岩の駅別温度差を読むで駅別に整理しています。
一方、相手方との合意形成や、裁判所・税務署への提出が目的であれば、公的データの引用だけでは足りません。不動産鑑定評価書、または価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない方法による価格調査の結果をまとめた書面)が必要になります。売買参考のための鑑定や法人向けの不動産評価では、目的に応じた成果物の選び方からご説明しています。
まとめ
2026年地価調査で江戸川区は住宅地6.2%、商業地9.4%の上昇となり、いずれも前年より上昇幅が拡大しました。しかし区の平均という一つの数字の内側では、駅前と内陸がはっきり別の速度で動いています。
要点を振り返ります。
- 江戸川区の対前年平均変動率は住宅地6.2%(前年5.1%)、商業地9.4%(前年7.7%)、工業地16.3%、全用途7.4%
- 23区の中では住宅地・商業地とも下から4番目。区部全域の住宅地8.7%、商業地13.3%を下回る
- 住宅地と商業地の差3.2ポイントは、基準地の立地条件・価格を決める仕組み・買い手の層という3つの違いから生まれている
- 住宅地を駅からの距離で区切ると、500メートル未満7.9%に対し1,000メートル以上は5.4%。2.5ポイントの開きがある
- 地価公示との共通8地点で見ると、この半年の上昇は住宅地2.5%、商業地3.5%、工業地5.8%
- 工業地16.3%は臨海町の1地点のみの数字。区内の工業系用地全体を代表するものではない
相続で不動産を分ける、売却の時期を決める、法人保有の工場・倉庫の時価を確かめる。どの場面でも必要になるのは「江戸川区の平均」ではなく「あなたの不動産の価格」です。区内で相続や売買を検討されている方、依頼者の不動産の時価を確かめておきたい税理士・弁護士・司法書士の先生方には、区平均の数字だけで判断を進めないことをお勧めします。
江戸川区・城東エリアの不動産の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。地価調査・地価公示をもとにした地域の概況のご説明から、正式な鑑定評価書の作成まで、目的に応じて対応いたします。


