江戸川区の地価を沿線で比較すると、東京メトロ東西線と都営新宿線の間には、はっきりした価格差があります。「西葛西や葛西は高い」「船堀や瑞江なら手が届く」という感覚をお持ちの方は多いでしょう。では、その差は実際にどれくらいで、これから縮まるのか、広がるのか。区内での住み替えや購入、相続した土地の売却を考えている方から、当事務所にもよく寄せられるご質問です。
結論から申し上げます。2026年(令和8年)地価公示の住宅地で見ると、東西線沿線(西葛西・葛西)の価格の中央値は1平方メートルあたり519,000円、都営新宿線沿線(船堀・一之江・瑞江・篠崎)は393,500円で、東西線が約3割高い水準にあります。ところが、1年間の上昇率は5.44%と5.47%で、ほとんど同じでした。価格差は「水準」に表れていて、「伸び」には表れていないのです。
本記事では、私たち鑑定士が評価で使う地価公示のデータを沿線ごとに集計し直し、この差がどこから生まれているのか、あなたの土地を考えるときにどう読めばよいのかを整理します。
江戸川区の地価を沿線で比較すると
3つの沿線に分けて集計する
江戸川区の鉄道は、大きく3本に分かれます。区の南部を走る東西線(西葛西・葛西)、区の中央を東西に貫く都営新宿線(船堀・一之江・瑞江・篠崎)、そして北部のJR総武線(平井・小岩、隣接する葛飾区の新小岩)です。
2026年地価公示で江戸川区に置かれた住宅地の標準地(地価公示で価格を判定する地点)69地点のうち、最寄駅が京成小岩・葛西臨海公園の2地点を除く67地点を、最寄駅によって3つの沿線に振り分けました。
| 沿線 | 地点数 | 価格の中央値 | 平均変動率 |
|---|---|---|---|
| 東西線 | 17 | 519,000円 | 5.44% |
| 都営新宿線 | 30 | 393,500円 | 5.47% |
| JR総武線 | 20 | 439,500円 | 6.18% |
価格は1平方メートルあたりです。平均変動率は、前年と比較できる継続地点(東西線16、都営新宿線30、JR総武線19)の単純平均です。(国土交通省「令和8年地価公示」標準地データ〔国土数値情報〕をもとに当事務所が集計)
東西線は約3割高い
中央値で比べると、東西線の519,000円は都営新宿線の393,500円の約1.32倍です。坪あたりに直すと、およそ172万円と130万円。100平方メートル(約30坪)の敷地であれば、1,250万円ほどの差になります。
JR総武線は両者の中間に位置します。
上昇率はほぼ同じ
一方、1年間の平均変動率は東西線5.44%、都営新宿線5.47%で、差はわずか0.03ポイントです。最も伸びたのはJR総武線の6.18%で、これは平井の上昇(区内で最も都心寄りに位置する駅)が押し上げています。
つまり、2026年の1年間に限って言えば、「東西線だから伸びた」「都営新宿線だから伸び悩んだ」という関係は見られません。沿線の違いは、価格の水準のほうに表れています。
差は駅からの距離では説明できない
両沿線の標準地は同じくらい駅から離れている
東西線の標準地が駅近に偏っているだけではないか。そこで最寄駅までの道路距離の中央値を確認しました。東西線は950メートル、都営新宿線は1,000メートル、JR総武線は1,015メートルで、ほとんど変わりません。
距離帯を揃えて比べても、差は残ります。
| 最寄駅までの距離 | 東西線 | 都営新宿線 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1,000メートル未満 | 565,000円 | 450,000円 | 約26% |
| 1,000メートル以上 | 457,000円 | 367,500円 | 約24% |
(価格は各距離帯の中央値。東西線は10地点・7地点、都営新宿線は14地点・16地点)
駅から近くても遠くても、東西線側が2割台半ばほど高い。距離帯を揃えても差が残るということは、沿線そのもの、あるいは沿線と重なる地域の性格が価格に効いていることを示しています。
同じ850メートルで比べる
具体的な標準地で確かめてみましょう。どちらも最寄駅から850メートルの住宅地です。
- 西葛西7丁目の標準地(西葛西駅から850メートル):595,000円/平方メートル、変動率プラス8.8%
- 船堀5丁目の標準地(船堀駅から850メートル):457,000円/平方メートル、変動率プラス6.0%
駅からの距離は同じでも、単価には約1.3倍の開きがあります。100平方メートルの敷地に公示価格をそのまま当てはめると、5,950万円と4,570万円で、差は1,380万円です。公示価格を面積倍しただけの試算で、実際の価格は土地の形や道路付けによって上下します。
駅のすぐ近くでは差が縮まる例もある
もっとも、どこでも3割の差があるわけではありません。駅から450メートルの葛西(中葛西3丁目)の標準地が598,000円であるのに対し、船堀駅から450メートル(船堀2丁目)は546,000円、瑞江駅から400メートル(南篠崎町3丁目)も546,000円で、差は1割弱にとどまります。
都営新宿線の駅前は、開業時から駅ビル・駅前広場・バスターミナルを備えた拠点として整えられてきました。駅の近くに限れば、都営新宿線沿線も東西線沿線に迫る評価を受けています。
なぜ東西線のほうが高いのか
都心のどこへ直通するか
鑑定評価の基本的なルールである不動産鑑定評価基準は、住宅地の価格を左右する地域要因(地域全体の価格水準を形づくる要因)の一つとして、「都心との距離及び交通施設の状態」を挙げています。沿線の差を読み解く出発点はここです。
東西線は、西葛西・葛西から乗り換えなしで大手町・日本橋へ直通します。丸の内・大手町・日本橋というオフィスが最も集積する地域へ一本で行けることは、勤め先の多い層にとって大きな価値です。都営新宿線も神保町・九段下・新宿へ直通しますが、東京駅・大手町方面へは乗り換えが必要になります。どの都心に、何回の乗り換えで着けるか。この違いが、住宅を探す方の選択を通じて価格の水準に反映されています。
街ができた時期と街並みの違い
もう一つは、街の成り立ちです。東西線の葛西駅は1969年、西葛西駅は1979年に開業し、周辺は土地区画整理事業によって道路や街区が整えられました。一方、都営新宿線は1983年に船堀駅、1986年に一之江・瑞江・篠崎駅が開業しています。江戸川区によれば、開通前の区中央部は都心へ直結する鉄道がなく、バスで最寄り駅まで1時間以上かかることも珍しくなかったといいます。
鉄道が通ったのが遅かった地域では、駅から離れた場所に戸建てや農地由来の宅地が残り、道路が狭い区画も少なくありません。前面道路の幅や区画の整い方は、個々の土地の評価にも影響します。
混雑は価格を下げているか
「東西線は混む」とよく言われます。国土交通省が2026年7月に公表した2025年度の混雑率では、東西線の最混雑区間(木場→門前仲町)は160%、都営新宿線(西大島→住吉)は152%でした。東西線のほうが混雑は激しく、前年度の150%からさらに上がっています。
それでも価格の水準は東西線が上です。混雑という不便さを差し引いても、大手町・日本橋への直通という利便性のほうが、住宅を求める方にとって重く評価されていると読むのが自然でしょう。ただし、混雑の悪化が今後も続けば、上昇の勢いに影響する可能性はあります。
沿線の差は家賃と収益価格にどう表れるか
家賃の差は土地ほど開かない
「東西線 家賃 相場」で調べる方も多いと思います。一般に、家賃は土地価格ほど大きく動かず、地域による差も土地価格より小さくなりやすい傾向があります。単身者向けの部屋であれば、借りる側は沿線よりも駅からの近さや築年数を重く見ることが多いためです。
想定されるケース:同じアパートを2つの沿線に建てたら
収益物件の価格は、収益還元法(不動産が将来生み出す純収益を、還元利回りで割り戻して価格を求める方法)で考えます。同じ規模のアパートを、東西線側と都営新宿線側に1棟ずつ持っていると仮定して試算してみます(数値はすべて説明のための仮定です)。
| 項目 | 東西線側 | 都営新宿線側 |
|---|---|---|
| 年間の純収益 | 600万円 | 560万円 |
| 還元利回り | 4.0% | 4.5% |
| 収益価格 | 1億5,000万円 | 約1億2,440万円 |
家賃(純収益)の差は約7%にすぎないのに、価格の差は約2割に広がります。投資家が東西線側に低い利回りを受け入れている、言い換えれば将来の安定性を高く見ているからです。収益物件を相続したり、親族間で売買したりする場面では、この利回りの読み方一つで評価額が大きく変わります。なお、この試算は価格の仕組みを説明するためのもので、特定の沿線への投資を勧めるものでも、将来の値上がりを示すものでもありません。
江戸川区の沿線別の地価差はこれから縮まるのか
船堀に区役所が移る
都営新宿線側で大きな変化が見込まれるのは船堀です。江戸川区は、船堀駅近くの市街地再開発事業の中で新庁舎を建設する計画を進めており、2025年2月の区の発表では、開庁は2033年にずれ込む見通しとされています。区の中心機能が駅前に移ることは、船堀の拠点性を高める要因になり得ます。
10年間の伸びでは東西線がやや上
一方、過去10年の動きを見ると、東西線の優位は続いています。2016年と2026年の両方の価格がある標準地で、10年間の上昇倍率の中央値を出すと、東西線は1.46倍、都営新宿線は1.38倍、JR総武線も1.38倍でした。1年単位では差が見えなくても、10年で見ると東西線側がやや大きく伸びています。
隣の江東区では差が小さい
参考までに、隣接する江東区の住宅地を見ると、東西線の南砂町駅から500メートルの標準地(南砂4丁目)が541,000円、都営新宿線の大島駅から500メートルの標準地(大島6丁目)が529,000円で、差は2%ほどです。都心に近づくほど沿線の差は小さくなり、江戸川区まで来ると差が開く。沿線の差は、都心からの距離が延びるほど大きくなる性格のものだと考えられます。地点数が少ないため、あくまで傾向として捉えてください。
沿線の相場をご自身の土地に当てはめるときの注意点
取引事例は同じ沿線から選ぶのが原則
実際の鑑定評価では、取引事例比較法(似た不動産の取引事例と比べて価格を求める方法)を使う際、同一需給圏(対象不動産と代わりになり得る不動産が存在する範囲)から事例を選びます。西葛西の土地を評価するのに、船堀の事例をそのまま使うことはしません。使う場合には、沿線の差を地域要因の比較として数値で織り込みます。
査定書や相手方の資料で、別の沿線の事例が補正なしに使われていないか。遺産分割や財産分与で価格が争いになったとき、私たち鑑定士がまず確認するポイントの一つです。
区の平均や沿線の平均は「あなたの土地」ではない
本記事の数字は、あくまで標準地の価格を集計したものです。同じ沿線でも、駅の近くと駅から1キロ以上離れた地域とでは、単価の中央値が2割以上違います。駅別の詳しい動きは2026年地価公示、江戸川区の住宅地は5.7%上昇|西葛西・葛西・小岩の駅別温度差を読むで、標高との関係は江戸川区のゼロメートル地帯は本当に安いのか|住宅地69地点を標高で並べた結果で整理していますので、あわせてご覧ください。
売却の時期を判断したい、相続人の間で分ける前に時価を確かめたいといった場面では、売買・価格に関する評価や相続にともなう不動産評価のご相談をお受けしています。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。相続税の申告に関わる評価方法や税額については、税理士にご確認ください。
まとめ
江戸川区の地価を沿線で比較すると、東西線は都営新宿線より約3割高い水準にありますが、2026年の上昇率はほぼ同じでした。差は「伸び」ではなく「水準」に表れています。
要点を振り返ります。
- 2026年地価公示の住宅地の中央値は、東西線519,000円、都営新宿線393,500円、JR総武線439,500円(1平方メートルあたり)
- 1年間の平均変動率は東西線5.44%、都営新宿線5.47%でほぼ同じ。JR総武線は平井に引っ張られて6.18%
- 駅からの距離帯を揃えても、東西線側が2割台半ば高い。差は距離ではなく、大手町・日本橋への直通や街の成り立ちに由来する
- 駅のすぐ近くでは、都営新宿線側も東西線側に1割弱まで迫る
- 10年間の上昇倍率は東西線1.46倍、都営新宿線1.38倍。船堀の区役所移転は今後の変化要因になり得る
- 家賃の差は土地ほど開かず、還元利回りの違いが収益物件の価格差を広げる
区内で住み替えや購入を検討されている方、相続した土地や収益物件の時価を確かめたい方、依頼者の不動産について沿線の違いを踏まえた評価が必要な税理士・弁護士の先生方には、沿線の平均値だけで判断を進めないことをお勧めします。
江戸川区・城東エリアの不動産の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。東西線・都営新宿線・JR総武線それぞれの地域性を踏まえて、あなたの土地の価格を根拠とともにご説明します。


