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同族会社の不動産売買、時価はどう決めるか|船堀の収益ビルは利回り1%で1億円動く

Appraisal Journal

同族会社の不動産売買では、時価の根拠を後から説明できるかが税務調査の分かれ目です。船堀駅近くの収益ビルを想定し、収益還元法の賃料水準・空室率・還元利回りの置き方で価格が1億円以上動く仕組みと、否認されない価格の作り方を西葛西の不動産鑑定士が解説します。

法人・事業用公開: 22分で読了著: 吉田 健人

同族会社が持つ収益ビルを、オーナーの資産管理会社に移したい。事業承継を前に、本業の会社から不動産を切り離しておきたい。同族会社の不動産売買で時価をどう決めるかというご相談を、区内の経営者の方や顧問税理士の先生方からいただきます。身内同士の取引だから価格は話し合いで決めればよい、と考えたくなるところですが、税務の世界では逆です。第三者との取引なら自然に決まる価格が、身内同士では「なぜその価格なのか」を説明しなければならなくなります。

結論から申し上げます。店舗・事務所・住宅が入る収益ビルの時価は、収益還元法(対象不動産が将来生み出すと期待される純収益を、還元利回りで割り戻して価格を求める手法)の三つの前提、すなわち賃料水準・空室率・還元利回りの置き方でほぼ決まります。後述する船堀駅近くの想定ビルでは、還元利回りを4.0%と5.0%のどちらに置くかだけで約1億円、社長の会社が借りているフロアの賃料を実額で置くか市場水準で置くかで約1億4,600万円、価格が動きます。税務調査で問われるのは、この前提の一つひとつに根拠があるかどうかです。

本記事では、船堀の収益ビルを題材に、私たち鑑定士が同族会社間の売買価格をどう組み立てるかを整理します。課税上の取扱いは会社の資本関係や取引の形で結論が変わりますので、必ず税理士にご確認ください。

同族会社の不動産売買で時価が問われる3つの取引形態

オーナー個人との売買

会社とオーナー個人の間の売買では、会社から個人へ安く売れば法人税法22条2項により時価との差額が会社の益金となり、その差額は役員給与として損金に算入できません。逆に個人から会社へ時価の2分の1未満で売れば、所得税法59条1項2号によるみなし譲渡の対象です。この構造は、工場を題材にした町工場を役員に売るといくらが適正かで詳しく扱いました。

兄弟会社・親子会社の間の売買

法人同士の売買では、時価より安く売った差額は売主側で寄附金(法人税法37条)、買主側で受贈益として扱われるのが原則です。100%の資本関係でつながる会社間では、グループ法人税制が働きます。譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上の土地や建物を譲渡した場合、譲渡損益は法人税法61条の11により繰り延べられます。ただし、繰り延べられる金額そのものが時価を基に計算されますから、「繰り延べになるから価格は何でもよい」とはなりません。

さらに、寄附金の損金不算入と受贈益の益金不算入をセットで扱う規定(法人税法37条2項・25条の2)は、法人による完全支配関係がある場合に限られます。オーナー個人が二つの会社の株式を100%ずつ持つ兄弟会社では適用されない場面があり、同じ「グループ内の売買」でも課税関係が大きく変わります。どの規定が当てはまるかは、必ず税理士にご確認ください。

組織再編で不動産を動かす場合

会社分割や合併で不動産を移す場合、税制適格なら帳簿価額で引き継がれますが、非適格なら時価で譲渡したものとされます。適格であっても、合併や分割の比率を決める株式価値の算定には不動産の時価が効いてきます。

どの形態でも、同族会社の行為計算否認(法人税法132条、所得税法157条)が控えています。目指すべきは、第三者との間でも成立したであろう価格だと後から書面で説明できる状態です。

収益ビルの時価は収益還元法の前提で決まる

直接還元法の式と3つの前提

収益還元法のうち、一期間の純収益を還元利回りで割り戻す方法を直接還元法といいます。式にすると「純収益÷還元利回り」です。不動産鑑定評価基準は、貸家及びその敷地の鑑定評価額について、実際実質賃料に基づく純収益から求めた収益価格を標準とし、積算価格と比準価格を比較考量して決定するものとしています。賃貸中のビルでは、収益価格が価格の軸になるということです。

この式に入る数字のうち、評価する人の判断が入るのは次の三つです。

  • 賃料水準:各フロアがいくらで貸せるか
  • 空室率:一年を通じてどれだけ空くと見るか
  • 還元利回り:その不動産にどれだけのリスクと成長を見込むか

船堀駅徒歩4分の複合ビルを想定する

具体的な数字を置きます。以下は説明のための想定であり、個別物件の評価額を示すものではありません。

項目内容
立地都営新宿線船堀駅から徒歩4分、商業地域
土地・建物敷地250平方メートル、鉄筋コンクリート造7階建て、延べ1,100平方メートル、築28年
用途1階店舗36坪、2〜3階事務所計78坪、4〜7階住宅1K16戸
所有と利用本業の同族会社Aが所有し、2〜3階をAが自社事務所として使用

Aは、このビルをオーナーが株式を持つ資産管理会社Bに売却し、2〜3階はBから借り直す計画です。

収益価格は約4億5,400万円

市場水準の賃料で満室想定の収入を置き、空室等の損失と費用を差し引きます。

項目前提年額
店舗賃料坪1.5万円×36坪648万円
事務所賃料坪1.2万円×78坪1,128万円
住宅賃料月7.8万円×16戸1,498万円
空室等損失店舗・事務所10%、住宅5%▲253万円
運営費用固都税・管理・修繕・保険等▲780万円
大規模修繕の積立資本的支出の平準化▲200万円
純収益2,041万円

純収益2,041万円を還元利回り4.5%で割り戻すと、収益価格は約4億5,400万円です。

船堀の賃料相場・空室率・利回りをどう置くか

賃料は相場を足元のデータで裏付ける

住宅の賃料は、募集データで水準を確かめます。SUUMOの船堀駅の家賃相場は、新築・駅徒歩5分以内の条件でワンルーム8.9万円、1Kが9.0万円です(2026年7月10日更新)。築28年の1Kであれば、そこから築年数による差を引いた月7.8万円は無理のない水準です。店舗は、飲食店ドットコムの船堀駅の店舗募集賃料が直近1年の平均で坪約1.7万円ですから、坪1.5万円は募集賃料と成約賃料の差を見込んだ置き方になります。

事務所は公表データの乏しい用途で、区内の中小企業や士業事務所の成約事例を積み上げて水準を判断します。

空室率は用途ごとに分ける

空室率を建物全体で一律に置くのは粗い方法です。1Kの住宅は船堀の通勤利便性から需要が厚く、入れ替わりの空室期間も短い。一方、店舗と事務所は一度空くと次のテナントが決まるまで数か月かかることがあります。本件では住宅5%、店舗・事務所10%と分けました。過去数年のレントロール(テナントごとの賃料・契約期間の一覧)で実績を確かめ、実績と大きく違う値を置くなら理由を書面に残します。

還元利回りは都心の数字からの上乗せで考える

還元利回りの出発点には、公表されている投資家の期待利回りを使います。日本不動産研究所の第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)では、東京・城南地区の賃貸住宅(ワンルームタイプ)の期待利回りは3.6%でした。これは都心に近い人気の住宅エリアで、住宅だけの賃貸マンションを対象にした数字です。

船堀の築28年、店舗・事務所を含む複合ビルでは、立地、築年数、用途の混在、テナントの入れ替わりリスクの分だけ利回りを上乗せします。本件で4.5%と置いたのは、城南の3.6%に0.9ポイントを加えた水準で、区内の同種の取引利回りとも照合して判断する数字です。

新庁舎計画をどこまで織り込むか

船堀では、船堀四丁目で区役所の新庁舎を含む再開発が計画されています(江戸川区「新庁舎建設」)。開庁時期は工事費の高騰などから見直しが重ねられてきました。まだ実現していない将来の期待を賃料や利回りに大きく織り込めば、価格は根拠の弱いものになります。計画の進み具合は船堀エリアの不動産鑑定でも触れていますが、評価では価格時点で市場が実際に織り込んでいる範囲にとどめるのが原則です。

収益還元法の利回りと身内賃料で価格はこれだけ動く

利回りを0.5%動かすと

純収益2,041万円のまま、還元利回りだけを変えてみます。

還元利回り収益価格4.5%との差
4.0%約5億1,000万円+約5,600万円
4.5%約4億5,400万円―
5.0%約4億800万円▲約4,600万円

4.0%と5.0%の差は約1億円です。還元利回りの根拠を「なんとなく5%」で済ませた評価は、それだけで否認の入口になります。

社長の会社が安く借りているフロア

次に、Aが2〜3階を月30万円で借り直す計画だったとします。市場水準の月94万円に対し3分の1以下です。この実額で純収益を計算すると約1,386万円となり、還元利回り4.5%では収益価格が約3億800万円まで下がります。市場水準で置いた場合との差は約1億4,600万円です。

評価基準は貸家の評価に実際の賃料を使うことを原則にしていますが、それは第三者との間で決まった賃料を前提にした話です。同族関係者間の賃料が市場水準から外れていれば、売買価格を下げた分だけ売主Aが安い賃料で利益を受け取る形になり、取引全体として価値を移したと見られかねません。リースバックの賃料を市場水準に合わせて設定するのが筋であり、私たち鑑定士は関係者間の賃料を必ず市場賃料と比べて検証します。

積算価格との開きで検証する

収益価格は、原価法(Cost Approach。再調達原価から減価修正を行って価格を求める手法)による積算価格と比べて検証します。本件で土地を1平方メートル当たり100万円、建物の再調達原価を1平方メートル当たり40万円、経済的耐用年数50年と置くと、土地2億5,000万円、建物約1億9,400万円で、積算価格は約4億4,400万円です。収益価格の約4億5,400万円と近く、二つの手法が互いを支え合う形になります。

同族会社の不動産売買で税務調査に耐える価格の作り方

売買の前に、契約日に合わせて取得する

時価の根拠資料は、売買契約の前に、価格時点を契約日近くに合わせて取得します。売買から数年後の税務調査の段階で慌てて評価を取っても、「その時点でなぜその価格にしたのか」の答えにはなりません。

レントロールと契約書と評価をそろえる

評価に使った賃料とレントロール、リースバックの賃貸借契約書、固定資産税の課税明細、修繕履歴。これらが一本の筋でつながっていれば、価格の説明は書面が引き受けてくれます。土地と建物の内訳は消費税と減価償却にも直結しますので、その設計は税理士にご確認ください。

価格等調査報告書と鑑定評価書の使い分け

売買をするかどうかを検討している段階や、グループ内の再編案を比べる段階であれば、価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない、目的・範囲を限定した価格調査)で足りることが多くあります。両者の違いは価格等調査報告書と鑑定評価書の違いでご説明しています。実際に売買を実行し、その価格を税務上の時価として説明する場面では、鑑定評価書をお勧めします。費用の目安は、収益ビルの鑑定評価書が40万円〜、価格等調査報告書が15万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

まとめ

同族会社の不動産売買で問われる時価は、帳簿価額でも固定資産税評価額でもなく、第三者との間でも成立したであろう価格です。収益ビルでは、それが収益還元法の三つの前提の置き方で決まります。

要点を振り返ります。

  • オーナー個人との売買、兄弟会社・親子会社間の売買、組織再編のいずれでも時価が基準になり、同族会社の行為計算否認(法人税法132条・所得税法157条)が控えている
  • 100%グループ内の譲渡損益の繰延べ(法人税法61条の11)も、繰り延べる金額は時価を基に計算される
  • 賃貸中の収益ビルは、評価基準上も収益価格が軸。賃料水準・空室率・還元利回りの三つに根拠が要る
  • 船堀の想定ビルでは、還元利回り4.0%と5.0%の差で約1億円、身内賃料を実額で置くかどうかで約1億4,600万円価格が動く
  • 評価は売買の前に、契約日に合わせて取得し、レントロールや賃貸借契約書と整合させておく

グループ内で収益ビルの移転や組織再編を検討されている同族会社のオーナーの方、関与先の売買価格の根拠づくりに悩まれている顧問税理士の先生方。前提の置き方で億単位の差が出る資産だからこそ、契約書を作る前に第三者の目で価格を固めておく価値があると断言します。

江戸川区・城東エリアの収益ビルなど事業用不動産の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。所在地・建物の概要・レントロールと、予定している取引の形(誰から誰へ、リースバックの有無)をお知らせいただければ、価格等調査報告書で足りるのか鑑定評価書が要るのかというところからご説明します。

TAGS#同族会社#不動産売買#時価#収益還元法#船堀
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