西葛西のファミリーマンションを、きょうだい2人で相続した。片方はそこに住み続けたい、もう片方は現金で受け取りたい。話は「じゃあ住む人が相手に代償金を払おう」というところまで進んだのに、その金額の根拠が決まらない。もしあなたがそういう場面にいらっしゃるなら、決め方の順番を間違えないでいただきたいのです。
区分所有マンションは、土地と違って線を引いて分けることができません。だから遺産分割の選択肢は、実質的に「代償分割」「換価分割」「共有のまま持つ」の3つに絞られます。そして代償分割を選んだ瞬間、すべては「いくらと評価するか」の一点にかかってきます。ここで相続税申告書の評価額をそのまま使うと、西葛西の70平方メートル級のマンション1戸でも代償金が1,000万円単位でずれるのです。
私たち鑑定士は、税務のための評価額、不動産会社の査定額、そして時価としての鑑定評価額を、まったく別のものとして扱います。本記事では、この3つがどれだけ違うのかを具体的な数字で示したうえで、きょうだい間で揉めずに代償金を決めるための評価の順番をご説明します。なお、相続税の課税上の取扱いは個別事情で結論が変わりますので、必ず税理士にご確認ください。
共有のまま持ち続ける選択がいちばん重い
区分所有マンションは現物で分けられない
遺産分割の原則的な方法は現物分割です。土地であれば分筆して分ける道がありますが、区分所有マンションの1戸は、専有部分と敷地利用権が一体になった1つの権利です。物理的に切り分けることはできません。
家庭裁判所の審判では、現物分割が相当でない場合に、家事事件手続法195条により代償分割が選択できます。実務上は、対象財産が細分化に適さないこと、代償金による解決に大きな争いがないこと、評価額についておおむね意見が一致していること、支払う相続人に支払能力があること、といった事情が「特別の事情」として考慮されるとされています。マンション1戸を住み続けたい相続人が取得する場面は、この枠にきれいに収まります。
共有のまま放置すると10年で選択肢が狭まる
「結論が出ないから、とりあえず持分2分の1ずつの共有で登記しておく」という選択は、いちばん重い先送りです。共有のままだと、売却にも大規模なリフォームにも共有者全員の合意が必要になり、どちらかに相続が起きれば当事者はさらに増えます。
さらに、2023年4月1日に施行された民法904条の3により、相続開始から10年を経過すると、原則として特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分による遺産分割を求めることができなくなります。同じく民法258条の2により、10年を経過した遺産共有の持分は共有物分割訴訟でも解消できるようになりました。この区切りを過ぎると、家庭裁判所で事情をくみ取ってもらう道が細くなります。法律上の効果は個別事情で変わりますので、見通しは弁護士にご確認ください。
ここで断言します。代償分割そのものに難しさはありません。難しいのは金額の根拠です。方法を決めてから金額でこじれるくらいなら、最初に「どの物差しで測るか」を合意しておくほうが早く終わります。
3つの「評価額」はこれだけ違う
相続税評価額は2024年からマンションだけ大きく変わった
相続税評価額は、土地の持分については路線価方式、建物については固定資産税評価額を基礎として計算します。ただしマンションについては、「居住用の区分所有財産の評価について」(国税庁法令解釈通達)により、令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得したものから「区分所有補正率」を掛ける仕組みが加わりました。
補正率は、築年数、総階数指数、所在階、敷地持分狭小度という4つの指数から「評価乖離率」を求め、その逆数である「評価水準」が0.6未満であれば評価乖離率に0.6を掛けた率、1を超えていれば評価乖離率そのもの、0.6以上1以下なら補正なし、という場合分けで決まります。
不動産会社の査定額は「売りたい価格」である
査定額は、媒介契約を取るための営業上の価格提示です。同じ部屋でも3社に頼めば数百万円の幅が出るのは普通です。問題は、誰の依頼で作られたかが価格に反映されてしまう点です。住み続けたい側が取ってきた査定書は低め、現金がほしい側が取ってきた査定書は高め、という構図になりがちです。このズレへの対処は相手方の査定書にどう対抗するかで整理しています。
鑑定評価額は第三者の立場で求めた時価である
不動産鑑定評価額は、不動産鑑定評価基準に従い、取引事例比較法・収益還元法・原価法といった手法を適用して求める正常価格です。依頼者がどちらの相続人であっても、結論は変わりません。この「依頼者から独立している」という性質が、きょうだい間の合意形成では効きます。
想定されるケース|西葛西・築25年・70平方メートルで並べる
具体的な数字で見てみましょう。西葛西駅徒歩10分、総階数10階建ての7階、専有面積70平方メートル、築25年、敷地利用権の面積20平方メートルの住戸を想定します。区分所有補正率を適用する前の相続税評価額(土地の持分と建物の固定資産税評価額の合計)を1,600万円とします。
区分所有補正率の計算は次のようになります。
| 指数 | 算式 | 本ケースの値 |
|---|---|---|
| 築年数 | 25年 × △0.033 | △0.825 |
| 総階数指数 | (10 ÷ 33)× 0.239 | 0.072 |
| 所在階 | 7階 × 0.018 | 0.126 |
| 敷地持分狭小度 | 0.29 × △1.195 | △0.347 |
| 評価乖離率 | 上記の合計 + 3.220 | 約2.247 |
評価水準は1を2.247で割った約0.445ですから0.6未満となり、区分所有補正率は2.247に0.6を掛けた約1.348です。補正前1,600万円の評価額は、約2,160万円に引き上がります。
一方、市場はどうでしょうか。西葛西駅の中古マンションの売却相場は、2026年8月時点で70平方メートル換算4,935万円、坪当たり233.1万円と公表されています(マンションレビュー、2026年8月時点)。これは駅周辺の平均値ですから、徒歩10分・築25年の住戸は平均より下に位置します。ここでは時価を4,300万円と想定します。
| 物差し | 評価額 | 持分2分の1相当の代償金 |
|---|---|---|
| 相続税評価額(区分所有補正率適用後) | 約2,160万円 | 約1,080万円 |
| 不動産会社の査定額(3社のレンジ) | 4,000万〜4,800万円 | 2,000万〜2,400万円 |
| 鑑定評価額(時価) | 約4,300万円 | 約2,150万円 |
相続税評価額を基準に代償金を決めれば約1,080万円、時価を基準にすれば約2,150万円。差は1,070万円です。住み続ける側にとっては前者が有利、現金を受け取る側にとっては後者が有利。どちらの数字を採用するかで、きょうだいの手取りが1,000万円動くのです。
遺産分割で公平を測るべき物差しは時価です。相続税評価額は課税のための簡便な価格であり、分けるための価格ではありません。この構造は土地でも同じで、路線価だけで分けると損をするのは誰かで詳しく整理しています。
揉めない評価の順番|4つのステップ
ステップ1|基準時をそろえる
最初にそろえるべきは金額ではなく時点です。家庭裁判所の実務では、特別受益や寄与分を反映した具体的相続分を計算する場面では相続開始時の価額を、実際に誰が何を取得して代償金をいくら払うかを決める場面では分割時の価額を用いる、という二段構えの扱いが一般的とされています。
西葛西のマンション相場は上昇局面にあり、先ほどの相場データでも前年比プラス5.42パーセントとされています。相続開始から協議終了まで1年以上かかれば、それだけで数百万円の差が生じます。「いつの価格で話しているのか」を最初に明示してください。法律上の扱いは事案により異なりますので、争いがある場合は弁護士にご確認ください。
ステップ2|市場の相場観を共有する
次に、きょうだい全員が納得できる相場観を1つだけ用意します。それぞれが別の不動産会社から査定書を持ち寄る進め方は、いちばん揉めます。共同で1つの資料を取得するほうが、費用も時間も感情の消耗も小さくすみます。
この段階では価格等調査報告書で足りることが多く、鑑定評価書より費用も期間も抑えられます。当事務所では、価格等調査報告書は10万円から15万円程度、鑑定評価書は20万円から60万円程度(いずれも税別)を目安にご案内しています。用途に応じた使い分けは価格等調査報告書と鑑定評価書の違いは提出先で決まるで整理しています。
ステップ3|住み続ける事情は価格と切り離す
「何年も親と同居して介護してきた」「引っ越すと子どもの学校が変わる」といった事情は、きょうだいの納得にとって決定的に重要です。しかしそれは不動産の価格の話ではありません。
価格は市場が決めるもの、事情は分け方で調整するもの。この2つを混ぜると「介護したから評価額を下げてほしい」という主張になり、評価の議論が感情の議論に変わります。価格は第三者の数字で固定し、寄与分や代償金の支払方法(分割払い、支払期限、担保の設定など)で調整してください。
ステップ4|合意できなければ鑑定評価書へ
相場観を共有しても折り合わない、あるいはすでに遺産分割調停に進んでいる場合は、鑑定評価書が必要です。調停・審判の場では、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に従って作成した鑑定評価書と、不動産会社の査定書とでは、資料としての扱いが明確に違います。
そして、いったん遺産分割協議書に署名・押印してしまうと、後から評価が違ったと主張して覆すことは容易ではありません。金額の根拠に納得できていないまま押印しないでください。
代償金を時価で決めたときの相続税の扱い
代償金は支払う側で控除、受け取る側で加算
代償分割を行った場合、相続税の課税価格は、代償財産を交付した相続人については現物の財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した金額、交付を受けた相続人については取得した現物の財産の価額に交付を受けた代償財産の価額を加算した金額となります(国税庁タックスアンサーNo.4173)。
時価ベースで決めた代償金は調整できる
ここが実務上いちばん見落とされます。代償債務の額が対象財産の時価を基に決定されている場合には、課税価格に反映させる代償財産の価額を、代償債務の額に「相続開始時の相続税評価額が分割時の通常取引価額に占める割合」を掛けて算出できる扱いが示されています(相続税法基本通達11の2-10)。
先ほどのケースなら、時価4,300万円を基に代償金2,150万円と決めた場合、2,150万円に2,160万円を4,300万円で割った約0.502を掛けた約1,080万円が課税上の代償財産の価額となる計算です。時価で代償金を決めたからといって、課税価格がそのまま膨らむわけではありません。この適用には要件がありますので、実際の申告処理は必ず税理士にご確認ください。
西葛西のマンションで価格が振れる要因
駅距離・築年帯・管理状態
西葛西は江戸川区で最も地価の高いエリアです。2026年地価公示では西葛西3丁目の住宅地標準地が1平方メートル当たり約67.5万円で、区平均の約1.4倍の水準にあります。ただし東西線単線のエリアであるため、駅から徒歩10分を超えると価格の落ち方が大きくなります。築年帯も、駅周辺の新しいマンションと1980年代から1990年代の大型団地型マンションで評価が分かれます。修繕積立金の積立状況や管理組合の運営状態も価格に影響し、積立不足で将来の一時金徴収が見込まれる物件は市場で敬遠されます。「西葛西の70平方メートルだから4,900万円」という当てはめは通用しません。
タワーマンションは階層別効用比が効く
西葛西駅周辺には複数のタワーマンションが立地し、1億円超の取引も見られます。階層・方位・眺望による住戸間の価格差が大きく、鑑定評価では階層別効用比(階数の違いによる効用の差を数値化した比率)の分析が要になります。そして区分所有補正率は、高層階・敷地持分が小さい住戸ほど相続税評価額を引き上げる方向に働きます。相続税評価額と時価の関係がかつてとは変わっていることを前提に議論してください。西葛西の市場特性は西葛西エリアの不動産鑑定でも整理しています。
まとめ
区分所有マンションを兄弟姉妹で相続した場合、現物では分けられないため、代償分割が現実的な解になります。そして代償分割の成否は、どの評価額を採用するかというただ一点にかかっています。
要点を振り返ります。
- 共有のまま放置すると、相続開始から10年で具体的相続分による分割を求められなくなり、選択肢が狭まる
- 相続税評価額は課税のための価格であり、遺産分割の公平を測る物差しではない
- マンションは令和6年1月1日以後の取得分から区分所有補正率が適用され、高層階・低築年・敷地持分の小さい住戸では評価額が上がる
- 想定したケースでは、相続税評価額を基準にするか時価を基準にするかで代償金が約1,070万円変わる
- 基準時をそろえる、相場観を1つ共有する、住み続ける事情は価格と切り離す、という順番が揉めごとを減らす
- 時価を基に決めた代償金は、課税価格に反映させる価額を相続税評価額と時価の割合で調整できる扱いがある
これから遺産分割の話し合いに入るごきょうだい、すでに代償金で意見が分かれているご家族、そして金額根拠を求められている税理士・弁護士の先生方。押印の前に価格の根拠を第三者の目で確かめておく価値は大きいと考えています。
江戸川区・城東エリアのマンションの評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。物件の所在地と分割のご事情をお知らせいただければ、鑑定評価書が必要な場面なのか価格等調査報告書で足りるのかというところからご説明します。相続・遺産分割の評価もあわせてご覧ください。


