「小岩は再開発で変わる」という話を、ここ数年よく耳にします。南口には新しい高層の建物が並び、北口でも工事が最終段階に入りました。小岩に土地や自宅をお持ちの方から「うちの資産も相当上がったはずだ」というお話をいただく機会も増えています。
結論から申し上げます。上がったのは事実です。ただし、上がった場所は驚くほど狭い範囲に限られています。地価公示の標準地を13年分たどると、小岩駅から80メートルの地点が1.9倍になった一方で、同じ「小岩」でも駅から1.4キロ離れた住宅地は1.3倍にとどまっていました。しかも小岩駅を最寄りとする住宅地の上昇率は、江戸川区の主要な駅の中で最も低いのです。
本記事では、国土交通省の地価公示データから小岩駅・京成小岩駅を最寄りとする標準地14地点を抜き出し、再開発事業の経過と重ね合わせます。どこまで、いつから、どれだけ効いたのか。私たち鑑定士が現場で行っている読み方を、そのままお見せします。
小岩駅周辺で進んできた3つの再開発
南小岩六丁目地区 ― 12年かけて3街区が完成
まず押さえたいのは、小岩の再開発が一つの事業ではないことです。南小岩六丁目地区第一種市街地再開発事業(従前の権利者の権利を新しい建物の床に変換する権利変換方式で行う再開発)は、小岩駅南口側で進められてきました。江戸川区の公表資料によれば、2012年7月に準備組合が設立され、2014年10月に都市計画決定、2016年12月に組合設立認可、2018年12月に権利変換計画認可を経て、2019年5月にI街区が着工しています。
その後、I街区が2021年1月、II街区が2022年5月に竣工し、最終となるIII街区は2026年3月に入居が始まりました(事業者・施工者の公表による)。準備組合の設立から数えれば14年がかりの事業です。
JR小岩駅北口地区 ― 2026年度完了予定
北口側では、JR小岩駅北口地区第一種市街地再開発事業が進んでいます。東京都都市整備局の公表資料によれば、地区面積は約2.0ヘクタール、都市計画決定は2018年(平成30年)7月、組合設立認可が2020年(令和2年)1月、権利変換計画認可が2021年(令和3年)7月、建築工事の着工が2023年(令和5年)1月で、建築工事の完了予定は2026年度とされています。
施設建築物は延べ面積約94,590平方メートル、住宅約731戸で、店舗等・住宅・保育所・駐車場を含む複合用途です。あわせて北口の駅前広場と道路が整備され、駅前の交通の流れそのものが変わります。
南小岩七丁目駅前地区 ― まだ「これから」の段階
三つ目が、南小岩七丁目の駅前地区です。江戸川区のホームページでは第一種市街地再開発事業が計画されていることが示されていますが、2026年9月時点で、区の公表ページに建物規模や事業スケジュールの記載はありません。民間で報じられている計画はありますが、都市計画決定に至っていない段階の情報です。
この「決まっている事業」と「これからの構想」の線引きは、評価の実務では決定的に重要です。理由は後ほどご説明します。
地価公示14地点で13年の推移をたどる
ここからはデータで検証します。使うのは国土交通省の地価公示(地価公示法に基づき、国土交通省の土地鑑定委員会が標準地を選定し、毎年1月1日時点の正常な価格を判定して公表する制度)です。2026年(令和8年)の標準地のうち、江戸川区内で小岩駅・京成小岩駅を最寄りとするものは14地点あります。地価公示のデータには各標準地の過去の価格も収録されているため、同じ地点を時系列で追うことができます。
駅前80メートルは105万円から200万円へ
最も劇的に動いたのは、西小岩1丁目にある駅から80メートルの標準地です。1平方メートルあたりの価格は、2013年の1,050,000円から2026年には2,000,000円になりました。13年で約1.9倍です。
この地点は、西葛西6丁目に次いで江戸川区内で2番目に単価の高い標準地でもあります。水準と上昇率の両方で区内の上位にあるということです。
| 区分 | 地点数 | 13年上昇 |
|---|---|---|
| 駅前商業地 | 1地点 | +90.5% |
| 住宅地800m内 | 3地点 | +46.3% |
| 住宅地1.2km超 | 4地点 | +27.7% |
(国土交通省「地価公示」の2013年と2026年の価格から当事務所が算出。住宅地は用途が住宅の地点のみ)
上昇が加速したのは2023年から
年ごとの動きを見ると、時期の特徴がはっきり出ます。駅前80メートルの地点の対前年変動率は、2014年から2017年が年2〜3%台、2018年から2020年が年6〜8%台、2021年はマイナス2.1%、2022年はプラス2.1%でした。そして2023年にプラス4.9%、2024年にプラス7.3%、2025年にプラス11.8%、2026年にプラス11.1%と、明確に加速しています。
2021年の小さな下落は、新型コロナウイルス感染症の影響が出た局面です。注目していただきたいのは、その後の再加速が北口地区の着工(2023年1月)と重なる点です。都市計画決定ではなく、実際に工事が始まり完成時期が具体的に見えた段階で、市場は本格的に価格へ織り込んでいます。
住宅地は距離で結果が割れた
一方、駅から離れると景色は一変します。小岩駅を最寄りとする代表的な4地点を並べます。
| 標準地 | 2013年 | 2026年 |
|---|---|---|
| 西小岩1丁目(80m) | 105.0万円 | 200.0万円 |
| 南小岩7丁目(370m) | 54.7万円 | 86.7万円 |
| 東小岩6丁目(510m) | 33.6万円 | 49.5万円 |
| 東松本2丁目(2,000m) | 24.2万円 | 31.1万円 |
(単位は1平方メートルあたり。かっこ内は最寄駅までの距離。国土交通省「地価公示」による)
駅から510メートルの東小岩6丁目が1.47倍になったのに対し、2,000メートルの東松本2丁目は1.29倍です。南小岩4丁目(1,400メートル)は1.31倍、興宮町(1,700メートル)は1.25倍、東小岩1丁目(1,800メートル)は1.26倍。1.2キロを超えたあたりで、上昇の勢いが明確に落ちます。
「小岩が上がった」と言えるのか
駅別に見ると区内で最下位
ここで視野を区全体に広げます。江戸川区の住宅地の継続地点について、2013年から2026年までの上昇率を最寄駅ごとに平均すると、次のようになります。
| 最寄駅 | 地点数 | 13年上昇 |
|---|---|---|
| 西葛西 | 5地点 | +54.5% |
| 平井 | 4地点 | +54.0% |
| 葛西 | 8地点 | +53.2% |
| 船堀 | 5地点 | +46.6% |
| 瑞江 | 5地点 | +45.9% |
| 一之江 | 5地点 | +42.8% |
| 新小岩 | 4地点 | +38.8% |
| 小岩 | 7地点 | +35.7% |
(国土交通省「地価公示」から当事務所が算出。3地点以上ある駅のみ掲載)
江戸川区の住宅地全体の平均は同じ期間でプラス45.8%。小岩はプラス35.7%で、区内の主要な駅の中で最も低く、区平均を10ポイント下回ります。三つの再開発が動いてきた街として、意外に感じられるのではないでしょうか。
距離帯をそろえても区平均に届かない
「小岩は駅から遠い標準地が多いから平均が下がるだけではないか」という疑問はもっともです。そこで距離帯をそろえました。
江戸川区全体の住宅地では、駅から800メートル以内の14地点が平均プラス50.2%、1.2キロ超の17地点が平均プラス36.9%。これに対し小岩の住宅地は、800メートル以内の3地点が平均プラス46.3%、1.2キロ超の4地点が平均プラス27.7%でした。
距離をそろえてもなお、小岩は区全体より4ポイントから9ポイント低い。小岩の住宅地は、再開発があってようやく区平均に近づいた、というのが正確な読み方です。江戸川区全体の直近の動きは2026年地価公示、江戸川区の住宅地は5.7%上昇|西葛西・葛西・小岩の駅別温度差を読むで整理していますので、あわせてご覧ください。
波及範囲はおよそ800メートル
再開発の価格への影響には、はっきりした距離の境目があります。駅に接する商業地では13年で1.9倍、駅から800メートル以内の住宅地では約1.46倍。ところが1.2キロを超えると約1.3倍で、これは再開発がなくても生じていたであろう都内全般の上昇と大きく変わりません。効果が明確に確認できるのは、おおむね駅から800メートル、徒歩10分の圏内までです。
断言しますが、「小岩が再開発で上がった」という表現は、実態を正しく表していません。上がったのは小岩駅前であり、その恩恵が届く範囲は、多くの方が想像するより狭いのです。
再開発エリアの土地をどう評価するか
区平均や駅前の上昇率を当てはめない
私たちが最も多く目にする誤りは、報道された区の平均変動率や駅前の派手な上昇率を、自分の土地にそのまま掛け算してしまうことです。小岩駅から1.8キロの住宅地(13年の上昇率はプラス25.6%)に区平均のプラス45.8%を当てはめると、1平方メートルあたり約39.4万円という計算になりますが、実際の標準地の価格は33.9万円です。土地が130平方メートルなら、評価額で約710万円の差が生じます。
遺産分割では13年前の前提が崩れている
もう一つ想定ケースをご覧ください。ご兄弟が、小岩駅から630メートルの西小岩4丁目の土地100平方メートルと、2,000メートルの東松本2丁目の土地130平方メートルを、それぞれ相続する前提で話し合っているとします。
2013年の標準地の価格なら、前者は34.0万円かける100平方メートルで3,400万円、後者は24.2万円かける130平方メートルで3,146万円。差は254万円で、「だいたい同じくらい」と言える範囲でした。
ところが2026年の価格では、前者は49.3万円かける100平方メートルで4,930万円、後者は31.1万円かける130平方メートルで4,043万円。差は887万円に開き、13年で3.5倍に広がったことになります。
昔の相続で決めた分け方や、親御さんの生前の意向が「面積で均等」を前提にしていた場合、その前提はすでに成立していない可能性があります。遺産分割で時価が争点になる場面の考え方は、路線価だけで分けると損をするのは誰か|江戸川区の遺産分割で鑑定評価が効く3つの場面で詳しく整理しました。なお、相続税の課税上の取扱いは個別性が高いため、具体的な税額や申告方法については税理士にご確認ください。
「これから」の計画をどこまで織り込むか
最後に、評価の実務で最も判断が難しい論点に触れます。南小岩七丁目のように、計画は語られているものの都市計画決定に至っていない事業を、価格にどこまで反映させるかという問題です。
先ほど確認したとおり、小岩駅前の価格が本格的に加速したのは、都市計画決定の年ではなく着工が具体化した年からでした。市場は構想の段階では動かず、実現の確度が上がった段階で動いています。私たち鑑定士も同じ考え方を採ります。都市計画決定、組合設立認可、権利変換計画認可、着工。どの段階まで進んでいるかによって、将来の期待を価格に織り込む度合いは変わります。構想段階の計画を前提に高い価格を出すことは、根拠を持って説明できません。
権利変換で取得する床の価値や、事業から転出する場合の補償の妥当性が問題になる場面では、従前の土地・建物の評価そのものが争点になります。こうした場合は、不動産鑑定評価書の形で根拠を残しておくことをお勧めします。小岩・北小岩・南小岩の地域特性と当事務所の対応範囲は、小岩エリアの不動産鑑定にまとめています。
まとめ
小岩駅周辺では三つの市街地再開発事業が段階的に進み、駅前の地価は13年で1.9倍になりました。しかしその効果は、駅からおよそ800メートルの範囲に集中しています。
要点を振り返ります。
- 小岩駅前(駅から80メートル)の標準地は2013年の105.0万円から2026年の200.0万円へ、13年で約1.9倍になった
- 上昇が加速したのは2023年以降で、北口地区の着工時期と重なる
- 住宅地は駅から800メートル以内が13年でプラス46.3%、1.2キロ超がプラス27.7%と、距離で結果が割れた
- 小岩駅を最寄りとする住宅地の13年上昇率はプラス35.7%で、江戸川区の主要な駅の中で最も低い(区平均はプラス45.8%)
- 距離帯をそろえて比較しても、小岩は区全体より4ポイントから9ポイント低い
- 南小岩七丁目駅前地区は都市計画決定に至っておらず、将来の計画を価格へ織り込む度合いは進捗段階で判断する必要がある
小岩・北小岩・南小岩に土地や自宅をお持ちの方、再開発区域の内外に不動産を持つ地権者の方、依頼者の資産を評価する立場にある税理士・弁護士・司法書士の先生方には、「小岩は上がった」という一括りの理解のまま判断を進めないことをお勧めします。同じ小岩でも、駅からの距離によって、この13年の結果はまったく違います。
江戸川区・城東エリアの不動産の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。再開発区域の周辺で土地の価格を確かめたい、遺産分割や売却の判断材料が欲しいといったご相談に、地域の概況のご説明から正式な鑑定評価書の作成まで、目的に応じて対応いたします。


