固定資産税評価額と時価の違いを知りたくて、毎年届く納税通知書を手に取った方は多いはずです。税理士は路線価で計算し、不動産会社の査定書には別の金額が書かれ、弁護士からは鑑定評価額が必要かもしれないと言われる。同じ家になぜいくつもの価格がつくのか、という戸惑いは、江戸川区で相続や売却を考え始めた方からよくいただくご相談です。
結論から申し上げます。4つの価格はどれも「間違い」ではありません。作る人と目的が違うため、水準が最初から違うように設計されているのです。一般に、固定資産税評価額は地価公示価格の7割、相続税路線価は8割を目安に定められ、仲介会社の査定額は売り出す価格の提案、鑑定評価額は市場で成立するであろう価格の判定です。そして地価の上昇が続く江戸川区では、固定資産税評価額は現在の公示価格水準の7割ではなく、6割前後にまで下がっているのが実情です。
私たち鑑定士は、依頼を受けるとまず「その価格を何に使うのか」を確かめます。本記事では、4つの価格の違いを早見表で整理し、西葛西の一戸建てを想定して金額のズレを試算します。
不動産の価格は4種類ある|まず早見表で全体をつかむ
4つの価格の作成者・目的・水準
不動産の価格は「一物四価」「一物五価」とも言われ、同じ土地に複数の公的・私的な価格が並びます。まず全体像を一覧にします。
| 価格 | 作成者 | 目的 | 水準の目安 |
|---|---|---|---|
| 固定資産税評価額 | 東京都(都税事務所) | 固定資産税などの課税 | 公示価格の7割 |
| 相続税路線価 | 国税庁(国税局) | 相続税・贈与税の課税 | 公示価格の8割 |
| 査定額 | 仲介会社 | 売出価格の提案 | 会社ごとに幅 |
| 鑑定評価額 | 不動産鑑定士 | 市場価値の判定 | 正常価格が基本 |
公示価格(地価公示法に基づき国土交通省の土地鑑定委員会が毎年1月1日時点の標準地の正常な価格を判定し、3月に公表する価格)は、公的な土地価格の物差しです。
「時価」はどれを指すのか
「時価」「実勢価格」は、実際に売買が成立する価格を指すのが一般的です。4つのうち時価を示そうとしているのは査定額と鑑定評価額だけで、固定資産税評価額と路線価は課税のためにあえて低い水準に置かれた価格です。
固定資産税評価額と時価の違い|江戸川区では7割ではなく6割前後
固定資産税評価額は3年に一度しか見直されない
固定資産税評価額(固定資産税・都市計画税・不動産取得税などの課税の基礎になる価格)の土地部分は、平成6年度の評価替えから地価公示価格等の7割を目途に評価することとされています。いわゆる7割評価です。なお23区内では、固定資産税は区ではなく東京都が課税しており、江戸川区の土地や家屋は江戸川都税事務所が評価しています。
ここで見落とされがちなのが、評価の時点です。固定資産税評価額は3年ごとの評価替え(基準年度)でしか本格的に見直されず、しかも基準年度の前年1月1日時点の価格が基準になります。2026年度(令和8年度)の固定資産税は、令和6年度の評価替えで決まった価格を据え置いた年度にあたり、その価格は2023年1月1日時点の地価を基にしています。地価が下がった場合は据置年度でも下落修正がありますが、上がった場合は次の評価替えまで反映されません。
3年分の上昇が「7割」を「6割」に押し下げる
江戸川区の住宅地の平均変動率は、地価公示で2024年が4.6パーセント、2025年が5.1パーセント、2026年が5.7パーセントの上昇でした(東京都財務局「地価公示価格(東京都分)の概要」各年)。2023年を100とすると、2026年はおよそ116です。
2023年時点の7割で評価された土地を、2026年の公示価格水準と比べると、0.7を1.16で割っておよそ0.6。つまり江戸川区の平均的な住宅地では、固定資産税評価額は現在の公示価格水準の6割程度にとどまっている計算です。「固定資産税評価額を0.7で割り戻せば時価になる」という計算式がよく紹介されますが、上昇局面の江戸川区でこれをそのまま使うと、時価を1割以上低く見積もることになります。次の評価替えである2027年度(令和9年度)には、2026年1月1日時点の価格を基準に見直されます。
建物の固定資産税評価額は「7割」とは無関係
「固定資産税評価額は時価の7割」という目安は、土地にしか当てはまりません。家屋の固定資産税評価額は、評価時点でその建物を新築した場合の費用(再建築価格)に、年数の経過による減価を反映する経年減点補正率を掛けて求めます。
木造住宅の経年減点補正率は0.2で下げ止まるため、市場ではほとんど価値が見込まれない古い家屋にも、再建築価格の2割にあたる評価額が残り続けます。建物の固定資産税評価額から時価を逆算するのは、土地以上に無理があります。
もう一つ、納税通知書に同封される課税明細書には「価格」と「課税標準額」が並んでいます。住宅用地には課税標準額を6分の1または3分の1に減らす特例があるため、課税標準額は評価額よりずっと低くなります。時価を考えるときに見るべきは「価格」の欄です。
路線価と実勢価格の違い|8割の物差しが通用しない土地
路線価は公示価格の8割、毎年1月1日時点
相続税路線価(国税庁が毎年公表する、路線に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額)は、相続税・贈与税の計算に使う価格で、地価公示価格の8割程度を目安に毎年1月1日時点で評定され、7月に公表されます。毎年見直される点で、固定資産税評価額よりも現在の水準に近い価格です。整形で標準的な土地なら、路線価を0.8で割り戻すと公示価格水準の概算が得られます。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額をそのまま使います。ですから相続税評価額は「土地は8割、建物は固定資産税評価額」という組み合わせになります。
実勢価格との乖離が大きくなる土地
ただし、路線価と実勢価格の比率が常に8割になるわけではありません。江戸川区で乖離が大きくなりやすいのは、次のような土地です。
- 旧市街に多い底地や借地権(路線価図の借地権割合は一律だが、取引価格は地代や借地人との関係で大きく変わる)
- 接道が不十分で再建築に制約がある土地
- 駅に近く人気の高いエリアの整形地(成約価格が公示価格を上回り、比率が8割を下回ることがある)
江戸川区の遺産分割でこのズレが問題になる場面は、路線価だけで分けると損をするのは誰か|江戸川区の遺産分割で鑑定評価が効く3つの場面で詳しく整理しています。
なお、マンションの相続税評価額は令和6年1月1日以後の相続・贈与から評価方法が改められています。具体的な計算や申告での取扱いは税理士にご確認ください。
査定額と鑑定評価額の違い|同じ「時価」でも性格が違う
査定額は「売り出す価格」の提案
仲介会社の査定額は、売却の依頼を受けるために示す、売り出す価格の提案です。宅地建物取引業法34条の2第2項は、宅建業者が価額について意見を述べるときは根拠を明らかにするよう定めていますが、算出方法に統一的な基準はなく、3社に頼めば3つの金額が出ます。駅から離れた江戸川区の一戸建てで査定額が開く理由は、査定額が3社でバラバラなのはなぜかでも解説しています。
鑑定評価額は「成立するであろう価格」の判定
鑑定評価額は、不動産の鑑定評価に関する法律に基づき、国家資格を持つ不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に則って判定する価格です。基準は価格の種類として正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格を定めており、通常求めるのは正常価格、つまり市場性を持つ不動産について、合理的な市場で形成されるであろう市場価値を表す価格です。取引事例比較法・原価法・収益還元法といった複数の手法の結果を検証し、判断の根拠を鑑定評価書に記載します。
査定額が「この価格で売り出しませんか」という提案であるのに対し、鑑定評価額は「この価格が妥当です」という判定です。第三者への説明責任を負う点で、両者は根本的に違います。
鑑定評価書と価格等調査報告書の使い分け
不動産鑑定士の書面には、基準にすべて則った鑑定評価書と、基準の一部によらない価格等調査報告書があります。どちらを選ぶかは提出先で決まります(価格等調査報告書と鑑定評価書の違いは提出先で決まる)。
想定されるケース|西葛西の一戸建てで4つの価格を並べる
前提条件
具体的な数字で比べてみます。西葛西駅から徒歩10分の住宅地、土地100平方メートルの整形地に、木造2階建て・築25年・延床面積95平方メートルの自宅が建っているとします。この土地の2026年1月1日時点の公示価格水準は1平方メートル当たり50万円、路線価は40万円、建物の固定資産税評価額は300万円と置きます。
土地の固定資産税評価額は、2023年時点の水準(50万円を1.16で割った約43万円)の7割で、1平方メートル当たり約30万1,000円です。
試算結果
| 価格 | 土地 | 建物 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 固定資産税評価額 | 約3,010万円 | 300万円 | 約3,310万円 |
| 相続税評価額 | 4,000万円 | 300万円 | 4,300万円 |
| 査定額(3社) | ― | ― | 5,080万〜5,680万円 |
| 鑑定評価額 | 5,000万円 | 100万円 | 5,100万円 |
鑑定評価額を100とすると、固定資産税評価額は約65、相続税評価額は約84です。査定額は売出価格の提案なので、鑑定評価額と同程度から1割強上まで開いています。
同じ家でも「使う価格」は場面で決まる
大切なのは、どれが正しいかではなく、場面ごとに使う価格が違うということです。
- 固定資産税の額を確かめる → 固定資産税評価額
- 相続税の申告をする → 相続税評価額(税理士にご確認ください)
- 売却するかどうかを考える → 査定額を複数比べる
- 相続人どうしで分ける、財産分与で分ける、親族間で売買する、裁判所に出す → 鑑定評価額
特に遺産分割や財産分与では、相続税評価額で分けるか鑑定評価額で分けるかによって、この例でも800万円の差が生じます。代償金(不動産を取得する人が他の相続人に支払うお金)の額が数百万円単位で変わる計算です。一方が固定資産税評価額を、もう一方が査定額を持ち出せば、差は2,000万円を超えます。当事者が別々の物差しを持ち寄る限り、話し合いはかみ合いません。
4つの価格を使い分けるときの注意点
価格時点を必ず確認する
4つの価格は、基準となる日付がそれぞれ違います。2026年度の固定資産税評価額は2023年1月1日、路線価は2026年1月1日、査定額と鑑定評価額は作成した時点または依頼者が指定した日が基準です。地価の上昇が続く江戸川区では、基準日が1年違えば5パーセント前後、3年違えば15パーセント前後の差が生じうる状況です。価格を比べるときは、金額より先に日付を並べてください。
個別の事情はどの公的価格にも十分には反映されない
固定資産税評価額も路線価も、多くの土地を一律の基準で評価する大量評価の仕組みです。江戸川区の旧市街に多い間口の狭い敷地や私道にしか接していない敷地、同じ町内でも浸水想定の深さが違う土地といった個別の事情は、十分には反映されません。
目的を決めてから依頼先を選ぶ
売却を前提に動くなら仲介会社の査定から、分割や協議の物差しが必要なら不動産鑑定士の評価から、というのが基本の順番です。相手方が別の価格を示してきたときは、早めに第三者の評価を用意するほど話し合いが進めやすくなります。
まとめ
同じ一つの不動産に4つの価格がつくのは、作る人と目的が違うからであり、どれかが誤っているわけではありません。大切なのは、目の前の場面にどの価格を使うべきかを見極めることです。
要点を振り返ります。
- 固定資産税評価額は公示価格の7割、相続税路線価は8割を目安に定められた課税用の価格で、時価そのものではない
- 固定資産税評価額は3年に一度の見直しで、2026年度は2023年1月1日時点の水準。地価が上昇した江戸川区では現在の公示価格水準の6割前後にとどまる
- 建物の固定資産税評価額は再建築価格に経年減点補正率を掛けたもので、7割評価とは無関係
- 査定額は売出価格の提案、鑑定評価額は市場で成立するであろう価格の判定で、説明責任の重さが違う
- 西葛西の一戸建ての試算では、相続税評価額と鑑定評価額の差は800万円
- 価格を比べるときは、金額より先に価格時点と目的を確認する
江戸川区で相続や売却、財産分与を考え始めた方、納税通知書の金額と査定額の開きに戸惑っている方、そして依頼者から価格の違いを尋ねられる税理士・弁護士・司法書士の先生方に、この早見表を役立てていただければ幸いです。
江戸川区・城東エリアの不動産がいくらなのか、どの価格を使うべきかでお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。納税通知書の課税明細書と、お手元の査定書があれば、それぞれの価格がどういう前提で出ているかを含めて最初の見立てをお伝えします。


