先代から引き継いだ底地(借地権が設定されている土地の、地主側の権利)が江戸川区にある。地代は月に数万円で、固定資産税を払えばほとんど残らない。そろそろ整理したいと考えて買取業者に相談したら、提示されたのは想像をはるかに下回る金額だった。相続税の申告書には数千万円と書いてあったのに、なぜこの値段なのか。
こうしたご相談は、区内の旧市街に借地を持つ地権者の方から繰り返しいただきます。そして多くの場合、業者の提示額そのものは、第三者への売却という前提では不当に安いわけではありません。問題は、その前提以外にも出口があり、出口ごとに手取りが3倍以上違うことを知らないまま、最初に相談した相手の土俵で話が進んでしまう点にあります。
私たち鑑定士は、底地の価格を「地代から逆算される収益」と「権利を併合したときに生まれる価値」の2層に分けて考えます。どちらを取りに行くかが、そのまま出口の選択になります。本記事では、江戸川区の住宅地に具体的な数字を置きながら、底地の値段がどう決まり、出口ごとに手取りがどれだけ変わるのかを整理します。なお、譲渡所得や相続税の課税上の取扱いは個別事情で結論が変わりますので、必ず税理士にご確認ください。
底地の値段は「地代」から逆算される
第三者の買い手が見ているのは利回りだけ
底地を買った人が手にできるものは、原則として地代だけです。その土地の上には他人の建物が建っていますから、自分で住むことも、建て替えることも、更地にして売ることもできません。つまり第三者にとっての底地は、不動産というより「地代という小さな収入が続く金融商品」に近い性格を持ちます。
金融商品として見るなら、価格は収入を利回りで割って求めるのが自然です。不動産鑑定評価基準でいう収益還元法(対象不動産が生み出すと期待される純収益を還元利回りで還元して価格を求める手法)の考え方そのものです。加えて底地は流動性が低く、金融機関の担保評価も出にくいため、買い手は高い利回りを要求します。地代が低いことと利回りが高いこと、この2つが重なった結果が底地の低い値段です。
江戸川区の住宅地で地代と固都税を試算する
具体的に置いてみます。江戸川区内の住宅地で、地積180平方メートル、更地としての価格が1平方メートル当たり45万円、合計8,100万円の土地を想定します。2026年(令和8年)地価公示における江戸川区の住宅地の平均価格は441,100円/平方メートルですから、区内としてごく標準的な水準です。以下の数字は、この8,100万円を公示価格の水準として組み立てています。
この土地に旧法借地権が設定され、住宅が建っているとします。固定資産税・都市計画税は次のように計算されます。
| 税目 | 課税標準と税率 | 年額 |
|---|---|---|
| 固定資産税 | 5,670万円×6分の1×1.4% | 約13.2万円 |
| 都市計画税 | 5,670万円×3分の1×0.3%×2分の1 | 約2.8万円 |
| 合計 | ー | 約16万円 |
固定資産税評価額は公示価格水準のおおむね7割として5,670万円と置きました。200平方メートル以下の部分は小規模住宅用地に当たるため、固定資産税は課税標準が6分の1、都市計画税は3分の1に軽減され、さらに東京23区では小規模住宅用地に係る都市計画税額を2分の1とする軽減措置が令和8年度も継続しています(東京都主税局)。
住宅地の旧法借地では、地代が固都税の年額の3倍から5倍程度にとどまる例が実務上よく見られます。ここでは年額60万円、月額5万円としましょう。
収益還元で計算すると更地価格の1割に届かない
純収益は、地代60万円から固都税16万円を引いた44万円です。流動性の低さと地代改定の難しさを織り込めば、第三者の買い手が求める還元利回りは6パーセントから7パーセント程度になります。44万円を6パーセントで割れば約733万円、7パーセントで割れば約629万円。更地価格8,100万円に対して、7パーセントから9パーセントにすぎません。
一方で買取業者は、将来的に借地権を買い取ったり同時売却に持ち込んだりして権利を併合する余地も織り込みます。そのぶん収益価格より上乗せされ、実務上は更地価格の10パーセントから20パーセント程度が第三者売却の目安とされています。この土地なら、おおむね800万円から1,200万円です。
これに対して相続税評価額はどうか。相続税路線価は公示価格水準の8割程度で評定されますから、更地の相続税評価額は約6,480万円、底地はその4割で2,592万円です。売れる値段のおよそ2倍から3倍の金額が申告書に記載されていることになります。
誰に売るかで価格が変わる理由
借地人にとっての底地は「完全所有権への鍵」
同じ底地でも、買い手が借地人であれば話がまったく変わります。借地人はすでに借地権を持っていますから、底地を取得した瞬間に、その土地は制約のない完全な所有権になります。借地権という制約付きの権利を、8,100万円の更地に変えられるわけです。この「併合による価値の増分」があるため、借地人は第三者よりはるかに高い金額を払っても合理性があります。市場では、借地人への売却価格は更地価格の40パーセントから50パーセント程度とされることが多く、この土地なら3,200万円から4,000万円の水準です。
不動産鑑定評価基準は、市場が相対的に限定される場合に当事者間でのみ経済的合理性が認められる価格を「限定価格」と定義し、借地権者が底地を併合する場合をその典型例として挙げています。第三者向けの価格と借地人向けの価格が違うのは、値引きや上乗せではなく、評価の前提そのものが違うからです。
買取業者にとっての底地は「時間のかかる仕入れ」
買取業者は、底地を仕入れてから借地人と交渉し、権利を整理して転売することで利益を得ます。その交渉が何年かかるか、そもそもまとまるかは事前に読めません。この不確実性と自社の利益を差し引いた金額が、提示額になります。
業者の提示額が安いのは、業者が不誠実だからではなく、そのビジネスモデルの必然です。ただし地主の側から見れば、借地人と直接交渉すれば自分の手元に入ったはずの差額を、業者に渡していることにもなります。
なお近年は、底地を利回り商品として購入する投資家や専門ファンドもあり、地代が相場並みに改定され契約書が整備された底地であれば、更地価格の30パーセントから50パーセント程度で取引される例もあります。裏を返せば、地代が固都税の3倍のままで契約書も見当たらない底地は、この土俵に乗りません。江戸川区の旧市街に残る戦前からの借地関係の多くは、残念ながらこちらに当てはまります。
江戸川区の地主が取れる5つの出口
出口1|借地人へ売る
もっとも手取りが大きくなりやすい出口です。借地人にとっても、地代の支払いから解放され、建て替えや売却が自由になり、住宅ローンも組みやすくなるという実利があります。障害は資金です。3,000万円台の資金を借地人が用意できるか。借地人が高齢で建物も古く、相続人が土地に関心を持っていない場合は、そもそも交渉が成立しません。まず打診してみる価値はありますが、断られる前提で次の出口も並行して検討しておくべきです。
出口2|借地権を買い取って完全所有権にする
立場を逆にする方法です。地主が借地人から借地権を買い取り、完全所有権の土地としてから市場に出します。借地権の買取価格を更地の40パーセントから50パーセントとすれば3,200万円から4,000万円を支出し、8,100万円で売却する。差引で4,100万円から4,900万円が残り、資金を用意できる地主にとっては出口1を上回る手取りになりえます。ただし買取資金と、売却までの期間のリスクを自分で負うことになります。
出口3|同時売却
借地人と地主が合意して、完全所有権の土地として同時に第三者へ売る方法です。どちらも資金を用意する必要がなく、更地としての8,100万円を二者で配分できるため、それぞれが単独で売るより手取りが増える可能性が高い出口です。
難しいのは配分比率です。借地権割合の60対40をそのまま使うのが常に妥当とは限らず、地代の水準、契約の残存期間、承諾条件、建物の状態によって公平な配分は変わります。底地側の取り分は更地価格の35パーセントから45パーセント、この土地なら2,800万円から3,600万円あたりで折り合うことが多いという感覚です。
出口4|等価交換で土地を分ける
現金を動かさず、底地と借地権を交換して土地そのものを分ける方法です。借地権割合が60対40なら、180平方メートルのうち72平方メートルを地主が完全所有権で取得し、108平方メートルを借地人が完全所有権で取得する、という形が基本形になります。
国税庁は、底地と借地権の交換は土地と土地との交換に当たるとしており、所得税法58条の固定資産の交換の特例の要件を満たせば譲渡がなかったものとして課税されない取扱いがあります。ただし互いに1年以上所有していること、交換後も同じ用途に供すること、双方の時価の差額が高い方の価額の20パーセント以内であることなど複数の要件があり、適用の可否は必ず税理士にご確認ください。
実務上の難点は、分けた後の土地が使いにくくなることです。72平方メートルの土地が間口の狭い形状になったり接道が不十分になったりすれば、更地価格の40パーセント相当の面積を得ても、価値は40パーセントに届きません。区内の旧市街では、この減価が無視できない規模になることがあります。
出口5|買取業者へ売る
手取りは最も小さくなりますが、借地人との交渉が不要で数か月で完了する、確実に現金化できる出口です。相続税の納税期限が迫っている、共有者が多く早期に現金で分けたい、借地人と長年争いがあって交渉が現実的でない。こうした事情があるなら合理的な選択です。重要なのは、他の出口の金額を知ったうえで、それでもこの出口を選ぶという判断をすることです。
想定されるケース|出口別の手取りを並べる
これまでの数字を一覧にします。地積180平方メートル、更地価格8,100万円、借地権割合60パーセント、旧法借地、地代年額60万円という前提です。譲渡所得税や仲介手数料は考慮していません。等価交換は、交換で取得した土地の価値を金額に置き換えたものです。
| 出口 | 手取りの目安 | 更地価格比 |
|---|---|---|
| 借地権を買い取る | 4,100万〜4,900万円 | 51〜60% |
| 借地人へ売る | 3,200万〜4,000万円 | 40〜49% |
| 同時売却 | 2,800万〜3,600万円 | 35〜44% |
| 等価交換 | 2,400万〜2,900万円 | 30〜36% |
| 買取業者へ売る | 800万〜1,200万円 | 10〜15% |
一番上と一番下では、およそ3倍から6倍の開きがあります。相続税評価額の2,592万円は、この表のちょうど中ほどに位置します。申告書の数字は、高くも安くもない中途半端な位置にあるということです。
この表の使い方
この表は、どの出口が正解かを示すものではありません。出口1と出口2は借地人の資力と意向に、出口3は双方の合意に、出口4は分割後の土地の使い勝手に左右され、実現可能性を掛け合わせれば順位は簡単に入れ替わります。お伝えしたいのは、最初に買取業者へ電話をかけて提示額を見た時点で、この表の一番下だけで判断してしまう方が多いということです。上の4つを検討してから下に降りるのと、最初から下にいるのとでは、結果が数千万円変わります。
出口を決める前に確認すべきこと
借地人の属性と建物の状態
出口1から出口4までは、すべて借地人の協力が前提です。ですから最初に確認すべきは土地ではなく、借地人の状況です。年齢と世帯構成、建物の築年数と傷み具合、相続人の有無と関心、資金調達の余地。建物が築50年を超えて建て替えの必要が迫っている借地人であれば、権利関係を整理する動機が強く、交渉は進みやすくなります。
なお、借地人が借地権を第三者に売る際に地主が承諾しない場合、借地人は借地借家法19条により、裁判所に承諾に代わる許可を求める申立てができます。地主が承諾を拒み続けても最終的に裁判所の判断で譲渡が実現しうる以上、承諾料の水準を含めて話し合いの席に着くほうが得られるものは大きいと考えています。法的な手続の見通しについては、弁護士にご確認ください。
相続が絡む場合の順番
底地を複数の相続人で共有している、あるいはこれから相続が起きるという場合は順番が重要です。共有のまま出口を探すと全員の同意が必要になって動きが取れず、逆に出口の見込みが立たないまま遺産分割で底地を誰かに寄せると、その相続人だけが実質的な損を負います。相続税評価額をそのまま分割の基準に使うことの危険は路線価だけで分けると損をするのは誰かで整理していますが、底地はその危険が最も大きく出る資産です。
価格の根拠をどう用意するか
借地人と交渉するにせよ、業者の提示額を検討するにせよ、拠り所となる数字が要ります。借地権割合という一つの記号では足りないことは、江戸川区の借地権割合は60%が中心でご説明したとおりです。
相場観を持ちたい段階、借地人との話し合いの材料として使う段階であれば、価格等調査報告書で足りることが多く、費用も期間も抑えられます。調停や訴訟に持ち込まれている場合、税務署への説明資料として使う場合、同時売却の配分を確定させる場合には、鑑定評価書が必要です。借地権・底地の評価もあわせてご覧ください。
まとめ
底地の値段は、土地の値段ではなく地代の値段として決まります。だからこそ第三者への売却では更地価格の1割程度にしかならず、同じ底地を借地人が買うなら4割から5割になる。どちらも正しい価格であり、違うのは前提です。
要点を振り返ります。
- 底地の収益価格は地代から固都税を引いた純収益を還元利回りで割って求めるため、地代が低い旧法借地では更地価格の1割に届かないことがある
- 江戸川区の住宅地180平方メートル・更地8,100万円という想定では、業者買取800万〜1,200万円に対し、借地人への売却は3,200万〜4,000万円となり、3倍以上の開きが生じる
- 借地人が底地を併合する場合は限定価格の考え方が働き、第三者向けの価格とは別の水準で成立しうる
- 地主が借地権を買い取って更地として売る、同時売却する、等価交換するという出口もあり、手取りは出口ごとに大きく異なる
- 等価交換には所得税法58条の交換の特例があるが要件が複数あり、分割後の土地の形状による減価も検討が要る
江戸川区の旧市街に底地をお持ちの地権者の方、底地を含む遺産の分割方針を決めかねている相続人の方、そして底地が絡む案件で評価額の妥当性に確信が持てない税理士・弁護士・司法書士の先生方。底地は、最初に相談する相手によって結論が決まってしまいやすい資産です。出口を選ぶ前に、選択肢ごとの数字を並べておく価値は大きいと断言します。
江戸川区・城東エリアの底地・借地権の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。所在地と地代・契約のご事情をお知らせいただければ、どの出口が現実的なのか、そもそも鑑定評価が必要な場面なのかというところからご説明します。


