借地の建物を建て替えるとき、承諾料はいくら払えばよいのでしょうか。南小岩や松島の旧市街で、親の代から借地に建つ木造の家が築50年を超え、建て替えたいと地主の方に相談したら「承諾料をいただきます」と言われた。けれど金額の根拠が分からない。江戸川区の借地人の方から、こうしたご相談をいただきます。
先に結論をお伝えします。同じ木造のまま建て替える場合の増改築承諾料(建替承諾料)は、更地価格(建物や借地権などの負担がない状態でその土地を売った場合の価格)の3パーセント前後が実務の目安です。床面積が大きく増えたり賃貸併用にしたりすれば3〜5パーセントに上がります。一方、木造から鉄筋コンクリート造へ変えるような借地条件の変更をともなう場合は、条件変更承諾料として更地価格の10パーセント前後が目安です。そして地主の方が承諾しないときは、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める借地非訟(借地に関する紛争を、訴訟ではなく裁判所の決定で解決する手続)という手続があります。
私たち鑑定士は、承諾料の相談を受けたとき「どの種類の承諾料か」と「基準になる更地価格はいくらか」を分けて確認します。率は工事の内容で、金額は土地の価格で決まるからです。本記事では、江戸川区の旧法借地を前提に、承諾の種類、相場と根拠、南小岩での試算、借地非訟の流れを整理します。なお、契約解釈や手続の見通しは弁護士に、課税上の取扱いは税理士にご確認ください。
借地の建替えに地主の承諾は必要か
契約書に増改築制限特約があるかで決まる
最初に確認すべきは契約書です。借地契約に「建物の増改築・建替えには地主の書面による承諾を要する」といった増改築制限特約(増改築禁止特約)があれば、建替えには地主の承諾が必要です。反対に、こうした特約がなく、建てる建物が契約で定めた種類・構造の範囲に収まるなら、法律上は地主の承諾なく建て替えられます。
江戸川区の旧市街に残る借地では、昭和の契約書にこの特約が入っていることが多く、特約がない場合でも事前に地主の方に話を通しておくのが通常です。
承諾を得ずに建て替えたらどうなるか
特約があるのに無断で建て替えた場合、地主から契約の解除を主張される可能性があります。もっとも最高裁判所は昭和41年4月21日の判決で、増改築禁止特約に違反した増改築であっても、それが土地の通常の利用上相当で、賃貸人に著しい影響を及ぼさず、信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、解除は認められないとしています。
とはいえ、解除の可否は個別の事情しだいで、住宅ローンでは金融機関から地主の承諾書を求められることも少なくありません。無断の建替えは選ぶべきではない、と断言します。
同じ木造か、構造を変えるかで承諾の種類が変わる
承諾は二種類です。契約で定めた構造の範囲内で建て替えるための増改築の承諾と、「非堅固建物(木造など、鉄筋コンクリート造などの堅固建物以外の建物)所有目的」の借地に堅固建物を建てるための借地条件変更の承諾です。
| 工事の内容 | 必要な承諾 | 承諾料の目安 |
|---|---|---|
| 一部の改築・大規模修繕 | 増改築の承諾 | 更地価格の1〜3% |
| 木造で全面建替え | 増改築の承諾 | 更地価格の3%前後 |
| 床面積増・賃貸併用 | 増改築の承諾 | 更地価格の3〜5% |
| 木造から鉄筋コンクリート造へ | 借地条件変更の承諾 | 更地価格の10%前後 |
借地の建替え承諾料の相場と根拠
増改築承諾料は更地価格の3パーセントが標準
木造の全面建替えで更地価格の3パーセント前後という目安は、借地非訟で裁判所が地主の承諾に代わる許可を出す際に、借地人に命じる財産上の給付(承諾料に相当する金銭)の水準として定着してきたものです。床面積が増える、居住用から賃貸用に変わるといった事情があれば3〜5パーセントへ上がり、東京地方裁判所の決定例には更地価格の4.5パーセントから7パーセント程度を命じたものもあります。逆に一部の改築にとどまるなら1〜3パーセントに下がります。
公的な統計はなく、この幅から外れる合意もありえます。交渉が決裂したときに裁判所が示すであろう水準が目安になる、というのが承諾料の相場の正体です。
条件変更承諾料の相場は更地価格の10パーセント
借地条件を非堅固建物所有目的から堅固建物所有目的へ変える場合、条件変更承諾料の相場は更地価格の10パーセント前後とされます。木造の建替えの3倍以上になるのは、変わるものの大きさが違うからです。
旧借地法では、堅固建物所有目的の借地権の存続期間は非堅固より長く(更新後で堅固30年、非堅固20年)、鉄筋コンクリート造は耐用年数も長いため、借地関係は事実上かなり先まで続きます。地主から見れば土地が戻る可能性が遠のき、その分だけ底地(借地権の負担が付いた土地の所有権)の価値が下がる。条件変更承諾料は、この価値の移転に対する対価と考えると理解しやすいでしょう。条件変更にあわせて地代の増額が合意されることが多いのも同じ理由です。
承諾料の水準は何に対する対価なのか
木造のまま建て替える場合も理屈は同じです。旧借地法7条は、借地権の消滅前に建物が滅失し、残存期間を超えて存続する建物を建てた場合に地主が遅滞なく異議を述べなければ、借地権は滅失の日から非堅固建物で20年間存続すると定めています。建替えは借地関係を長くする効果を持ち、その対価が承諾料です。
私たち鑑定士の立場から付け加えると、承諾料の「率」に気を取られがちですが、金額を最も大きく動かすのは基準となる更地価格のほうです。同じ3パーセントでも、更地価格の見立てが1,000万円違えば承諾料は30万円違います。
江戸川区の借地で建替えの承諾が問題になる理由
旧市街の木造住宅が建替え期を迎えている
江戸川区は、小岩・平井・松江・鹿骨といった旧市街に、戦前から戦後にかけて設定された借地関係が今も残る地域です。そこに建つ木造住宅には旧耐震基準(昭和56年5月以前の耐震基準)のまま築40年を超えるものが多く、相続をきっかけに子世代が建替えを考える場面で承諾料の話が持ち上がります。
不燃化特区と新たな防火規制で、建てられる建物が変わった
江戸川区には、木造住宅密集地域の解消を進める東京都の不燃化特区として、松島三丁目地区、平井二丁目付近地区、南小岩七・八丁目周辺地区、南小岩南部・東松本付近地区などが指定されています。南小岩南部・東松本付近地区や鹿骨五丁目付近地区などには、東京都建築安全条例7条の3にもとづく新たな防火規制も告示されており、原則としてすべての建築物を準耐火建築物以上とする必要があります。
誤解されやすいのですが、防火規制がかかっても、ただちに堅固建物への条件変更が必要になるわけではありません。準耐火建築物は木造でも建てられるため、木造準耐火の3階建てに建て替えるなら、契約上は非堅固建物の範囲に収まると考えるのが一般的です。軽量鉄骨造のプレハブ住宅も裁判例では非堅固とされる例が多い一方、重量鉄骨造は判断が分かれます。どの構造で建てるかによって承諾料の種類が変わり、金額は3倍違ってきますので、設計の段階で契約の借地条件と照らし合わせてください。
反対に、ゼロメートル地帯(満潮時の海面より低い土地)が広がる江戸川区では、水害時の垂直避難を考えて鉄筋コンクリート造を選ぶ方もいます。この場合は条件変更承諾料の水準になります。借地権割合そのものの考え方は江戸川区の借地権割合は60%が中心で整理していますので、あわせてお読みください。
想定されるケース|南小岩の99平方メートルで3つの建替えを試算
具体的な数字を置きます。江戸川区南小岩の住宅地、地積99平方メートル(約30坪)、昭和48年築の木造2階建ての自宅が建つ旧法借地。契約は非堅固建物所有目的で、増改築制限特約があります。相続税路線価(国税庁が毎年公表する、路線に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額)は1平方メートル当たり38万円、路線価図の借地権割合はD(60パーセント)と仮定します。
路線価は地価公示価格水準のおおむね8割とされていますから、更地価格は1平方メートル当たり47万5,000円、総額でおよそ4,700万円と置きます。
| ケース | 建替えの内容 | 承諾料の率 | 金額の目安 |
|---|---|---|---|
| ケース1 | 木造2階で同規模 | 3% | 約141万円 |
| ケース2 | 木造準耐火3階の二世帯 | 4〜5% | 約188〜235万円 |
| ケース3 | 鉄筋コンクリート造3階 | 10% | 約470万円 |
ケース1とケース2の差は「床面積と用途」
ケース1は同規模の木造への建替えなので標準的な3パーセントで約141万円、ケース2は木造準耐火の3階建ての二世帯住宅で床面積が大きく増えるため4〜5パーセントで約188万円から235万円です。どちらも非堅固のままなので、必要なのは増改築の承諾です。
ケース3は承諾料に加えて地代の見直しが論点になる
ケース3は借地条件の変更をともなうため、約470万円とケース1の3倍を超えます。さらに条件変更後は地代の増額を求められることが多く、長い期間で見ると地代の差額のほうが大きくなることもあります。地代を含めた総額で比べてください。
試算の土台は更地価格の見立て
この試算は更地価格4,700万円という前提の上に成り立っています。南小岩の旧市街には間口が狭い、前面道路が4メートル未満といった個別性の強い土地が多く、路線価からの割り戻しでは実際の価格とずれます。地主は新築分譲の坪単価から高く、借地人は路線価だけで低く見ている、という食い違いがあれば、承諾料の議論は平行線になります。
地主と交渉が決裂したら|借地非訟で建替えの許可を求める流れ
借地借家法17条の申立てで地主の承諾に代わる許可を得る
地主の方が承諾しない、または承諾料の金額で折り合わない場合、借地人は裁判所に借地非訟事件を申し立てることができます。借地借家法17条は、借地条件の変更(1項)と、増改築制限特約がある場合の増改築の許可(2項)を定めており、旧借地法時代に設定された借地にも適用されます。申立ては借地人からするもので、着工前に行う必要があります。
東京地方裁判所は平成27年4月1日以降、増改築制限特約がある借地で堅固建物へ建て替える場合、借地条件変更に加えて増改築許可の申立ても必要とする運用ですが、同庁の案内では承諾料の総額は従前と変わらないとされています。
鑑定委員会の意見をもとに財産上の給付が決まる
裁判所は、許可をするかどうかと、許可する場合に借地人が地主へ支払う財産上の給付の額を判断する際、特に必要がないと認める場合を除いて鑑定委員会の意見を聴かなければなりません(借地借家法17条6項)。鑑定委員会は3人以上の委員で組織され(同法47条1項)、実務上は不動産鑑定士や弁護士などが加わり、現地を見たうえで更地価格を査定し、給付の額について意見を述べます。
鑑定委員会がまず更地価格を査定する以上、当事者が更地価格の根拠となる資料を用意しておくことは、意見の妥当性を検証するうえでも意味を持ちます。許可と同時に地代の改定が命じられることもあります。
申立ての前に交渉で決着できるかを見極める
借地非訟は申立てから決定まで半年から1年程度を見込むことが多く、その間は着工できず弁護士費用もかかります。提示額と裁判所が示しそうな水準との差が小さければ、交渉でまとめるほうが合理的です。
判断の材料として、当事者間の協議で概算の水準を把握したい段階なら価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない、目的・範囲を限定した価格調査)で足りることがあり、借地非訟に進む可能性が高い段階では鑑定評価書が適しています。借地権・底地の鑑定評価書は40万円〜(税別)、借地非訟や調停・訴訟など争訟案件は、価格等調査30万円・鑑定評価書60万円(税別)を起点にお見積りします。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
更新料と承諾料の違いについては借地の更新料に支払義務はあるのかで整理しています。借地権・底地の評価のご相談は借地権・底地の評価でも受け付けています。
まとめ
借地の建替え承諾料は、同じ木造で建て替えるなら更地価格の3パーセント前後、木造から鉄筋コンクリート造へ借地条件を変えるなら10パーセント前後が実務の目安です。率は工事の内容で決まり、金額は更地価格の見立てで決まります。
要点を振り返ります。
- 増改築制限特約があれば、建替えには地主の承諾か裁判所の許可が必要
- 木造の全面建替えの承諾料は更地価格の3%前後、床面積増や賃貸併用で3〜5%
- 非堅固から堅固への条件変更承諾料は更地価格の10%前後で、地代の増額も論点になる
- 江戸川区の新たな防火規制でも木造準耐火で建てられ、ただちに条件変更が要るわけではない
- 交渉が決裂したら借地借家法17条の借地非訟で、鑑定委員会の意見をもとに給付額が決まる
- 率の議論の前に、基準となる更地価格に共通の土台を作ることが先
江戸川区の旧法借地で建替えを考えている借地人の方、承諾料の提示を検討している地主の方、相談を受けた税理士・弁護士・司法書士の先生方にとって、承諾料は率だけが独り歩きしやすい論点です。更地価格という共通の物差しを先に置くことに意味があります。
江戸川区・城東エリアの借地権や底地の評価、建替え承諾料の検証でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。契約書と建替えの計画図をお手元にご用意いただければ、承諾料の妥当性を確かめるためにどの資料が必要かを含めて、最初の見立てをお伝えします。


